清水 侑

なぜ仕事が複雑化するのか

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決裁者として周囲の仕事を眺めると、仕事が複雑化するのを見かけます。
問題が複雑化し、問題同士が絡み合い、収拾がつかなくなる状況です。

この複雑化をどう捉えたらいいのだろうと考えていたのですが、
「全ての可能性のうち最適解でないものが圧倒的多数なので、仕事は複雑化しやすくなっている。
だから、最適解を出し続けないといけない」ということだと思います。

例えば「将棋」をイメージしてもらえればわかりやすいです。
藤井聡太さんが鬼的な強さを発揮する伝統的マインドスポーツです。

A君が本将棋でB君と対戦するとします。
A君は先手なので、将棋盤に並んだ初期位置の20の駒から、好きな駒を自由に動かすことができます。
駒の種類や位置によって制限はありますが、初手なら30通りの動かし方があります。

でも、長年の研究からその30通りの動かし方の中で、「好手」とされるのは数通りしかないことがわかっています。
仮に「好手」は3通りだとします。一方、その他の27通りは「悪手」なのです。
つまり、ランダムに打ち手を選んだ場合は圧倒的に悪手になる可能性が高いのです。
さて、A君は「悪手」を打ってしまいました。
すると、A君にとって盤面の状況は悪化し、少し複雑になってしまいました。

その後にB君が打ち、またA君の番がやってきます。
ここでも、Aくんの可能な動かし方は30通り、「好手」は3通りしかないとします。
しかし、またAくんは「悪手」を打ってしまいました。
形勢は更に悪化し、A君にとって状況はさらに複雑になっていきます。

ここまででA君は駒を2回動かしました。

駒の動かし方の組み合わせ数は、1手目の30通りに2手目の30通りを乗じれば良いので、
「(1手目)30通り✕(2手目)30通り=900通り」です。
(本当はB君の駒の動かし方も影響しますが、シンプル化のため省略)

そのうち、「好手」を打ち続けられる動かし方は、「(1手目)3通り✕(2手目)3通り=9通り」しかないんです。
つまり、「好手」を続けられる確率は1%のみで、状況を悪化させ複雑にする確率は99%もあるです。

もちろん、これはたった2回駒を動かしただけでの話で、
実際の本将棋では100回くらい駒を動かし、常に好手を打ち続ける可能性は非常に低くなります。

一方、プロの棋士は常に好手を打ち続けるのが普通です。
そのため、プロの棋士同士の対局は一つの悪手が命取りになり、
「いかにミスをしないか」という戦いになります。
プロ棋士が負けた時の会見では、「あの悪手が響いて取り返せなかった」という発言がでたりします。

これは、仕事でも同様です。

将棋と同じように、起こりうる可能性の殆どが「悪手」です。
うまく行かない場合は沢山の「悪手」を打ってしまい、状況が複雑化してしまいます。

でも、優秀な人は「最適解」を打つ確率が高く、結果として複雑化させていないのです。
一つ一つの判断を大切にしたり、ある瞬間の判断の後々の影響を考慮して決めたりします。
もちろん、実際の仕事では将棋のようにルールが定まった一対一のボードゲームではないので、

相手の一手の間に自分は二手打ったり、「本将棋じゃなくて麻雀にしません?」とゲームを変えたり、
イカサマをする相手を第三者に裁定してもらったり、臨機応変に選択肢を選ぶことになります。
全ての可能性のうち殆どは複雑にするものなので、そもそも物事は進むほど複雑化しやすくなっています。

だから、注意して最適解を出し続けないといけないよね、という話でした。