橋本 真希

ミセス・ワタナベ

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「ミセス・ワタナベ」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、特定の人を指しているわけではなく、日本の個人投資家一般(特に日本の主婦層)を指す俗語です。
 
昨今は「老後2,000万円問題」がクローズアップされていることもあり、資産運用に注目が集まっています。
この記事を読んでいる方でも、投資デビューをしたい・最近始めたという方は多いのではないでしょうか。
 
コロナ以前から、日本では主婦や会社員をはじめとした個人投資家が多数存在していました。
ミセス・ワタナベは、総体としては今でも市場の動きに影響力を及ぼすほどの大きな金額を動かしています。
そう表現すると、あたかも持ち上げているように思われるかもしれませんが、相場のプレイヤーとして「ミセス・ワタナベ」を語る際、必ずしも良い意味で用いられているわけではありません。
むしろ、海外のヘッジファンドをはじめとしたプロにとっての「絶好のカモ」として語られることが多いです。
 
ミセス・ワタナベは、一般的にはリスクを取りたがらず、比較的安全な投資を好む傾向があると言われています。
一方で、しばしば市場の表面的なトレンドに釣られて投機的な行動を取ることがあり、結果として多大な損失を被るといったことも少なくないと言われています。

多くの日本の個人投資家は、家事や本業と並行しながら、短い時間を投資関連の行動に回しています。
そうなると、金融機関等で本業として、または専業で投資に取り組んでいる人と比べて、収集できる情報量は必然的に少なくなります。
また、情報収集に励んだとしても、思考・判断にかけられるリソースも必然的に少なくなります。
そもそも、多くの人と同じく日々を懸命に過ごしていたら、思考力や判断力は十分に残されていないでしょう。
そうしたなかで、その場の欲望や不安・恐怖に流されて場当たり的な判断をしてしまうことで、悪い結果につながってしまいます。

一部の「強者」は、多数派がどう動くかを徹底的に予測・把握して、先回りで行動し、多数派をうまく誘導して自分たちが勝つように取り組んでいるといっても過言ではありません。
心理学の知見はマーケットの参加者だけでなく、マーケティングや営業、人事等、ビジネスのあらゆる方面で利用されています。
一部の強者が多数の弱者を誘導して利益や権益を享受するという構図は、資産運用の世界に限らずあらゆる方面に存在し、誰もが直面しているのではないでしょうか。
 
人種や性別、文化等は違えど、「人がどういう場合にどのような反応をするか」には共通点が多々あります。
その場の感情・目先の損得勘定に流されて行った判断は、意図せずして多数派と似たような判断になりがちです。
高度に情報化された社会において、多数派に属することはリスクとなります。
特にZ世代と呼ばれる若者世代は(私のその枠に当てはまりますが)、デジタルネイティブであることもあってか、周囲との同質性を重んじる傾向にあるようです。
しかし「みんなと同じだから大丈夫」という考え方は、上記のような理由からもかなり大きなディスアドバンテージを背負うことになります。

他者の発信した意見を鵜呑みにするのも危険です。
その発信を受けた他の人もその意見に追従するようであれば、意図せずして多数派に流されてしまいます。
その発信者も何らかの「計画」をもとに意図的に発信を行っている可能性もあります。
もはや一種の決まり文句ですが、「最終的に判断の責任を取るのは自分自身」です。
●●さんが××と言っていたから、といった他責で考えるのではなく、自分で調査し考えて責任を取る姿勢が、あらゆる場面で必要です。
 
「ミセス・ワタナベ」の行動特性からは、資産運用に興味がない人でも学べることが多くあると思います。
周りの意見や一時の感情に流されず、「仕組みの裏」まで自分で考えて行動していく必要性が高まっています。
情報や技術の進歩にタイムリーにキャッチアップできれば、「見晴らし」を良くすることは十分に可能です。
くれぐれも、安易な方向にばかり流されないようにしたいものです。