旅館業・ホテル営業許可

違法民泊について ~違法事例の紹介~

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コンサルタント
塚本 純平

○ 民泊サービスを実施するためには、事業者は、旅館業法上の許可、住宅宿泊事業法の届出、国家戦略特区法上の認定のいずれかの手続きをとる必要があります。
こうした手続きをせず行政の監督を受けずに無断で実施している民泊サービスは、違法民泊となります。

○ 違法民泊の場合は、例えば以下のような問題が発生する可能性がより高いと考えられます。
・衛生上の措置が講じられておらず、きちんと掃除されていない。
・犯罪や病気等の緊急事態が発生しても、事業者が駆けつける体制が整っていない。
・事業に対して近隣住民の理解が得られていないために、宿泊中に近隣住民から苦情を受ける。
・火災が発生しても、火災警報が鳴らない、消火器がない、避難口がわからない等により、初期消火や避難が遅れる危険性が高い。
・鍵が適切に管理されていないために、安心して宿泊できない。

○ 違法民泊を実施することについては、旅館業法違反により罰則の対象となることはもちろんですが、例えば以下のような問題が発生することにより、中長期的に安定的に運営することが難しくなりがちなだけでなく、大切な資産が台無しになる結果を招くことが懸念されます。
・近隣住民の理解を得られていないために、宿泊者が宿泊中に苦情を受け、その結果、安心・快適に宿泊できず、いわゆる口コミ情報等における宿泊からの評価が低くなる。
・衛生管理が適切に行われていないために、不潔と感じる宿泊者が多くなり、いわゆる口コミ情報等における宿泊からの評価が低くなる。
・火災発生時に宿泊者の安全を守るために必要な設備の設置や防火管理の体制が適切に行われていないため、宿泊者の人命が損なわれる可能性がある。
・消防用設備等や防火管理体制に不備があり、消防署から行政指導を受けたり、行政処分の対象となったりすることがある。
・本人確認を適切に実施しないことにより、重大な犯罪の現場や、犯罪者の潜伏場所として悪用されるおそれがある。

〇違法事例

・都内で個人宅の空き部屋に旅行者を泊める「民泊」を旅館業法の許可を取得せずに営業したとして、旅館業法違反の疑いで東京都港区の2社と、両社の役員ら男女6人が書類送検された。

・東京都港区の上場企業の子会社が運営支援を行っていた民泊ホストに対する旅館業法違反の被疑事件の一環で、同子会社にも警視庁による捜査が入る。この事件により同社は民泊事業からの撤退を表明。

・大阪市で旅館業法の許可を得ずに旅行者を泊めた疑いで、女性と夫婦の計3人が旅館業法違反の疑いで書類送検。

・京都市右京区の賃貸マンションの44室中34室で、旅館業法の許可を得ずに観光客約300人を有料で宿泊させ、旅館業を営んだ疑いで書類送検。

・都内の木造3階建ての自宅の1~2階部分にある3室(24.9m2)を1泊1人2,500~5,000円程度で旅行者に提供していた英国人男性(28)が旅館業法違反で逮捕、略式命令(罰金3万円)を受けた。

旅館業法の違法行為について

旅館業法の違反行為は、以下のように分類され、それぞれに罰則が設けられています。

①無許可営業
旅館業法では、無許可営業を行う者に対して、報告徴収や立入検査を行います。
そして調査の結果、処置が必要と判断された場合は、営業停止等の処置が命じられます。
無許可営業を行った者には、罰則として6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその併科が処されることになります(旅館業法第10条第1号)。

・関係法令

旅館業法第7条第2項:都道府県知事は、旅館業が営まれている施設において第7条の2第3項の規定による命令をすべきか否かを調査する必要があると認めるときは、当該旅館業を営む者(営業者を除く。)その他の関係者から必要な報告を求め、又は当該職員に、旅館業の施設に立ち入り、その構造設備若しくはこれに関する書類を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

旅館業法第7条の2第3項:都道府県知事は、この法律の規定に違反して旅館業が営まれている場合であつて、当該旅館業が営まれることによる公衆衛生上の重大な危害の発生若しくは拡大又は著しく善良の風俗を害する行為の助長若しくは誘発を防止するため緊急に措置をとる必要があると認めるときは、当該旅館業を営む者(営業者を除く。)に対し、当該旅館業の停止その他公衆衛生上又は善良の風俗の保持上必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

②許可の取消処分命令、営業停止命令に対する命令違反
旅館業法では、設備等が法に定める基準に適合しなくなった施設の営業者に対して、業務改善命令を出すことができます。
業務改善命令や旅館業法に基づく処分に違反した場合、または営業者等が以下の各号にあたると判断された場合は、許可の取消処分または1年以内の営業停止(全部または一部)を命じられます。
取消処分や営業停止処分に従わなかった場合は、罰則として6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその併科が処されます(旅館業法第10条第2号)。

・関係法令

旅館業法第7条の2第1項:都道府県知事は、旅館業の施設の構造設備が第三条第二項の政令で定める基準に適合しなくなつたと認めるときは、当該営業者に対し、相当の期間を定めて、当該施設の構造設備をその基準に適合させるために必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

旅館業法第8条:都道府県知事は、営業者が、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律に基づく処分に違反したとき、又は第三条第二項各号(第四号を除く。)に該当するに至つたときは、同条第一項の許可を取り消し、又は一年以内の期間を定めて旅館業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。営業者(営業者が法人である場合におけるその代表者を含む。)又はその代理人、使用人その他の従業者が、当該旅館業に関し次に掲げる罪を犯したときも、同様とする。
一 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十四条、第百七十五条又は第百八十二条の罪
二 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)に規定する罪(同法第二条第四項の接待飲食等営業及び同条第十一項の特定遊興飲食店営業に関するものに限る。)
三 売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)第二章に規定する罪
四 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二章に規定する罪

③営業上の義務違反
旅館業者は、理由なく宿泊しようとする者の宿泊を拒んではいけません。
また、宿泊者名簿の備付け等の義務もあります。
義務に違反した場合は、50万円以下の罰金が処されます(旅館業法第11条第1号)。

・関係法令

旅館業法第5条:営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき。
二 宿泊しようとする者が“とばく”、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
三 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。

旅館業法第6条第1項:営業者は、厚生労働省令で定めるところにより旅館業の施設その他の厚生労働省令で定める場所に宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、職業その他の厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があつたときは、これを提出しなければならない。

④立入検査等の妨害・必要な報告等の義務違反
旅館業法では、無許可営業者に対して報告徴収や立入検査が行える(旅館業法第7条第2項)と解説しましたが、同様に営業者に対しても必要に応じて報告徴収や立入検査が行うことができます(旅館業法第7条第1項)。
そして、これらの報告徴収や立入検査等に対して、虚偽報告や検査妨害等を行った場合は、50万円以下の罰金が処されます(旅館業法第11条第2号)。

⑤公衆衛生上又は善良の風俗の保持上必要な措置命令に対する命令違反
旅館業法では、必要に応じて公衆衛生上または善良の風俗の保持のために必要な措置を講ずるよう、業務改善命令を出すことができます。
業務改善命令に違反した場合は、50万円以下の罰金が処されます(旅館業法第11条第3号)。

・関係法令

旅館業法第7条の2第2項:都道府県知事は、旅館業による公衆衛生上の危害の発生若しくは拡大又は善良の風俗を害する行為の助長若しくは誘発を防止するため必要があると認めるときは、当該営業者に対し、公衆衛生上又は善良の風俗の保持上必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

⑥両罰規定
旅館業法第13条には両罰規定が設けられています。
罰則は、行為者のみならず、その法人や雇用主にも科せられることになります。

・関係法令

旅館業法大13条:法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第10条又は第11条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。