山林等における野生生物被害の現状
投稿日:2026年5月28日
過熱するクマ報道の影に隠れる盲点
特にここ数年、クマによる被害や目撃のニュースをよく耳にするようになりました。
最近では市街地への出没も頻繁に報じられており、住民の生活に影響が及んでいる地域もあります。
野生のクマが人里を含めて頻繁に現れるようになった背景には、いくつかの理由が指摘されています。
一つは、狩猟を控える動きによってクマの頭数自体が増えていること。
そしてもう一つは、気候変動の激化によって山の実りが不作となり、食料を求めて人里にも進出していることなどです。
しかし、クマに関する報道が過熱していることで、山地や地方全般における日常生活・観光・ビジネスを過度に恐れるようになったり、かえってクマ以外の野生生物に対する注意が疎かになることも懸念されます。
確かに、万が一クマに遭遇して被害に遭った場合のダメージは計り知れませんが、身の回りにはほかにも人命を脅かす可能性のある野生生物や事象がたくさん潜んでいます。
情報が溢れる中で、現状を完全かつ正確に把握することは簡単ではありません。
だからこそ、リスクを客観的に見つめ「正しく恐れる」姿勢が求められていると考えます。
数字で比較するリスク
少し俯瞰してリスクの規模を比較するために、主な野生生物の被害と、身近なリスクの一例として「東京23区内の交通人身事故」のデータを並べて考えてみます(※簡易的な集計のため、時期が統一されていないなど不徹底な部分があるのはお許しください)。
これらを比較すると、いくつかの意外な事実が見えてきます。
まず目を引くのは、日々の生活に潜む身近なリスクの大きさです。
データを紐解くと、どの野生生物による被害よりも、東京23区内における交通人身事故の方が、発生頻度・被害者数ともに圧倒的に多いです。
また、私たちが注意すべきなのはクマのような大型動物だけではありません。
意外な小動物や昆虫も高い死亡リスクを持っています。
例えば蜂は、アナフィラキシーショックという特殊なリスクがあるため、年間の死者数がクマ並みかそれ以上になることもあります。
さらに、マムシによる咬傷被害にいたっては、年間1,000〜3,000件も発生していると言われています。
もちろん、だからといってクマを軽視していいわけではありません。
クマに遭遇する頻度自体は交通事故よりずっと低いものの、一度遭遇して人身被害に発展した場合の死亡・重症化リスクは極めて高いため、厳重な注意が必要なのは言うまでもありません。
| 生物 / 事象 | 推定息数・母数 | 年間の出没・発生件数等 | 年間の人身被害(死傷者) | 被害・死亡の割合と特徴 |
| 交通事故(東京23区)(令和6年) | 23区人口:約973万人 | 交通人身事故発生件数:21,025件 | 死者:93人、負傷者:22,894人 | 1日あたり約58件発生。日常的に発生頻度が高く、死傷者数も多い。※高速道路上の事故は含まない。 |
| クマ(全国・令和7年度) | 推定個体数:全国で数万頭規模とされるが、地域差が大きい | 出没情報:50,776件(北海道を除く速報値) | 人身被害:216件、被害者238人、死亡13人 | 出没数・人身被害者数・死亡者数が非常に多い年。遭遇頻度は交通事故より低いが、遭遇時の重大事故リスクは高い。 |
| イノシシ | 推定個体数:約122万頭(令和5年度末中央値) | 捕獲数は年間数十万頭規模。農作物被害も大きい | 人身被害は年に数十件規模。死亡は年0〜数人程度 | 個体数・分布ともに多く、農作物被害や市街地出没が問題。人身被害は発生するが、クマほど死亡事故は多くない。 |
| ニホンザル | 全国的な正確な推定は難しい。地域ごとの群れ・個体数管理が中心 | 農作物被害、住宅地・観光地での出没、威嚇・接触事例あり | 負傷者は発生するが、死亡事故は非常にまれ | 人里への出没は多いが、死亡事故に至るケースはまれ。主なリスクは咬傷・ひっかき・威嚇、農作物被害。 |
| 野犬・犬 | 飼い犬を含む犬全体が対象。野犬単独の母数把握は困難 | ー | 犬による咬傷事故:5,432件(令和5年度・うち野犬は29件)。死亡事故は非常にまれ | 「野犬」よりも、実際の咬傷事故は飼い犬によるものがほとんど。 |
| マムシ | 算定困難 | 正確な全国出没件数は把握しにくい | 咬傷:年間1,000〜3,000件程度とする文献あり。死亡:年間5~10例程度とする文献あり | 遭遇しても逃げれば無害なことが多いが、咬まれた場合は重症化・死亡の可能性がある。高齢者や治療遅れではリスクが上がる。 |
| 蜂(スズメバチ等) | 算定困難 | 駆除依頼・刺傷被害は多数。正確な全国出没件数は把握しにくい | 蜂刺されによる死亡:年間15〜20人前後。令和4年は20人 | 刺傷そのものより、アナフィラキシーによる死亡が問題。野生生物による死亡リスクとしては比較的高い。※スズメバチ単独ではなく、蜂刺され全体として整理するのが安全。 |
大切なのはリスクの性質を知ること
ニュースを見ていると、大きく取り上げられる「巨大な脅威(クマ)」に目を奪われがちですが、日々の交通事故やクマ以外の生物による被害の可能性も私たちの日常に潜んでいます。
大切なのは、個別の事象に過度にパニックになることなく、それぞれの「リスクの性質」を冷静に理解し、それぞれに対して適切な対策をとることです。
各野生生物の概要
最後に、今回取り上げた各野生生物の概要を簡単にまとめます。
クマ(ツキノワグマの場合)
本州・四国の山地を中心に生息。
通常は攻撃性が低いが、子連れの場合や突然驚かせた場合などは襲われるリスクが上昇する。
クマが生息する地域に出かける前には、自治体や環境省のWebサイトなどで「直近の出没情報」を確認。
最近出没したルートには近づかないのが最大の防御。
ニホンイノシシ
北海道以外の海抜1,000m以下の山地に生息。体長1m程度。
子連れの場合や突然驚かせた場合などに突進してくることがある。
遭遇した場合は、木の上などのなるべく高い場所に逃げるか、それが難しい場合は持っている荷物を置いて後ずさりし、荷物に気を取られている間に避難すると良い。
ニホンザル
青森県から鹿児島県にかけて生息。
荷物や食料を奪おうとしたり、子ザルに接近したときなどは危険。
サルの眼をじっと見つめることは威嚇とみなされることがあるので控えること。
野犬
地域によっては群れをつくり、家畜や飼犬を襲う被害が確認される。
後を追ってくる恐れが強まるため、遭遇しても背中を見せて逃げ出さない。
マムシ
沖縄を除く日本全国に生息。全長80cm程度になることもある。
踏みつけるようなことがなければ能動的に襲ってくることはほとんどないが、保護色のため気づかずに接近してしまう恐れがある。
一度噛んだ相手は何度も噛みつこうとする性質がある。
噛まれた場合は、ポイズンリムーバーか口で速やかに毒素を吸い出す必要がある。
スズメバチ
巣に近づくと集団で攻撃してくる場合がある。
スズメバチが近づいてきたら、落ち着いて静かにその場を離れる。
刺された場合は、ポイズンリムーバーか口で速やかに毒素を吸い出し、洗浄や軟膏塗布を行う。

