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■「投資助言業」の活用機会の広がり(2023.11)

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報道発表
  • 2023年11月、株式会社山梨中央銀行は、有価証券の運用部門のノウハウを生かして投資助言ビジネスに参入すると発表。12月に全額出資子会社を設立。2023年度内にも投資運用会社などへの営業を開始。投資助言によるコンサルティング料を新たな収益源に育てる方針。
  • 設立する子会社は、甲府市所在・資本金5000万円で、銀行本体の運用部門から10人弱の社員が出向して事業を開始。将来は、公募投資信託を運用する投資運用会社等も対象に事業拡大を目指す。
  • 地銀では、これまでに株式会社肥後銀行(熊本県)や株式会社北國銀行(石川県)が、子会社による投資助言事業を始めている。
規制解説

■ 各種金融機関における兼業規制  

銀行をはじめ、証券会社・運用会社等の各種金融機関は、他の業務により経営基盤が脅かされるリスクを排除する等の目的で、各業法において他に行うことができる業務(兼業)の範囲が一定制限されています。

[銀行の場合]

  • 銀行の場合、銀行法に基づき、兼業可能な範囲は以下と定められ、これ以外の兼業は認められていません。
①固有業務
(銀行法10-1)
「預金又は定期積金等の受入れ」「資金の貸付け又は手形の割引」及び
「為替取引」のこと。
②付随業務
(銀行法10-2)
固有業務に付随する業務のこと。「債務の保証等」「有価証券の売買」
「有価証証券の貸付」「振替業」「両替」が列挙されている。
③他業証券業務
(銀行法11)
固有業務の遂行を妨げない限度において認められる業務のこと。
「金商法に規定する投資助言業務」等が列挙されている。
④法定他業務
(銀行法12)
上記①~③以外で、他の法律により認められる業務のこと。
  • 銀行が社会経済で期待される役割の変化等にあわせ、銀行の兼業範囲を見直す改正が度々行われており、上記の内、特に「付随業務」の範囲が拡大される傾向にあります。
  • その他、銀行の兼業規制については、銀行本体だけでなく、銀行子会社や銀行兄弟会社に対しても課せられています。ただし、規制内容は、銀行本体とは異なり、銀行子会社については[銀行法16の2]に、銀行兄弟会社については[銀行法52の23]に、それぞれ規定されています。なお、銀行子会社は、銀行法施行規則第17条の2第2項において、「投資助言業」を含む金融商品取引法に基づく業務が一部認められています。
専門家の視点

■ 投資助言業の活用機会  

1.増えつつある「他業種から投資助言業への参入相談」  

  • 金融商品取引業にも、「第一種・第二種・運用・助言」の4種類があります。
    この中で、一番活用余地が幅広く(長年金商実務に関わってきた上での実感値ですが)、他の種別に比べてライセンス取得・維持ハードルが低く、弊社への相談も多いのが「投資助言業」です。

    特に最近は、以下のような「他業務からの投資助言業への新規参入」の相談が増えています。

    既に一定の実績・顧客数を獲得している既存事業を柱に、その既存事業のノウハウ・顧客基盤等を生かせる投資助言業も提供し、事業シナジーを高め収益機会を広げたいというパターンです。

    [最近よくあるご相談]
✓ 国内外の金融機関(地方銀行・信託会社等)が、投資助言・コンサルティングを
  手掛ける子会社を立ち上げたいケース

✓ 既存の金融商品取引業者(投資助言以外)が、投資助言を追加する変更登録又は
  投資助言を行う子会社を新たに設立したいケース

✓ 不動産や保険等、広い意味での資産を扱う他事業から投資助言業への新規参入ケース

2.なぜ今「投資助言業」なのか

  • 投資助言業の相談が増えている一因として「コロナの影響等を受けた個人投資家の投資意欲の高まり」があげられます。

    コロナの影響で、生活防衛意識の高まりや在宅勤務・オンライン面談等の普及により余裕時間が生まれたことで、若年層も含め幅広い個人投資家の投資意欲が高まる傾向に。また、NISA制度の見直し、行政による投資・経済教育の普及活動等もあり、益々、投資に興味関心が集まる傾向にあります。

    こうした社会的な変化を受け、投資経験の浅い個人でも手を出しやすい分散・少額・積立型の金融商品や株式等の初心者向けの投資情報の提供を手掛けたり、若年層の投資家を早期に囲い込み長期的に様々な投資・運用機会を提供すべく、そのきっかけとして投資助言業を活用しようとする相談が増えている印象です。

3.「投資助言業」の魅力

  • 「投資助言業」とは、顧客との間で締結した投資顧問契約(有償)に基づき、「有価証券の価値等」又は「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断」について助言を行うことをいいます。

  • 投資助言業者は、あくまでも「助言(アドバイス)」を行うのみで、個々の投資判断は投資家(顧客)自身が行う点は、注意が必要です。

    例えば、「投資判断を顧客ではなく、投資助言業者が行っている場合」(ミラートレード等の自動売買システムを含む)、投資助言業ではなく、投資運用業に該当する可能性があります。また、特定の商品の販売や購入手続き等に関与する場合も、第一種・第二種金融商品取引業や金融商品仲介業等に該当する可能性があります。

  • 投資助言業の事業としての魅力は、以下の点にあるように思います。
    更に、国が促進する「貯蓄から投資へ」の流れの中で、NISA制度の見直し・金融教育の普及等も進んでおり、こうした国・政策の方向性とも相性がいいのが投資助言業です。

    [①顧客となる対象者の範囲(顧客層・地域等)の広さ]
     ✓ 他の業種(第二種等)は、実際に顧客が投資・取引を行う際等に関与することが多いですが、
       投資助言業は、実際に顧客が投資等を行うか否かに関わらず&投資等を行う前段階から関与し、
       報酬を得ることができます。

       実際、株式投資スクール等では、「投資経験はないが投資に興味がある若年層」等を対象に、
       個別銘柄の分析手法やチャートの見方等を指導したり、投資シュミレーションをさせる等、
       実際に投資等を行っていない顧客から報酬を得ている場合があります。

     ✓ 投資助言業者の助言方法は、対面だけでなく、電話・メールやチャット等の文書・書籍・動画等、
       多岐に渡ります。コロナ禍で、様々なオンラインツールが普及した今では、1拠点で全国の顧客を
       対象に、様々な方法で助言サービスを遠隔提供することも現実的です。

       また、投資助言業は、一定のルールのもと、ホームページ等のオンライン上で勧誘等を行ったり、
       投資顧問契約の締結も電磁的方法で完結することが可能です。
      (比較)他の業種(第二種等)では、ホームページ等で勧誘・集客等をする場合、
          電子募集取扱業務等に該当し、登録ハードルが一気に高くなる場合があります。

    [②報酬体系の柔軟さ]
     ✓ 投資助言業者が顧客から得る報酬体系も、比較的柔軟に設定することができます。
      (投資助言業者には、顧客の利益を第一に業務を行う忠実義務等が課せられている為、
       合理的でない報酬体系はもちろんNG。また業務方法書への記載等の諸手続きも必要)

       固定報酬は「月〇円/年〇円、1銘柄につき〇円、1回につき〇円」等、様々な基準で設定可。
       助言によって利益が出た場合に発生する「成功報酬」を設定することも可能です。
      (固定報酬×成功報酬の組み合わせも可)魅力的なプラン・サービスを複数設定している場合、
       1名の顧客との間で複数の投資顧問契約を締結しているケースもあります。

 

4.他事業から投資助言業に参入する際の注意点

  • 他事業から投資助言業に参入する際に気を付けたいのが「申請主体をどうするか」です。

    ✓ 投資助言業のライセンスは、その申請者(個人又は法人)に対して付与されます。
      ライセンスだけを他人/他社へ承継する等はできません。
     (ライセンス主体を変更したい場合は、原則ライセンスの取直し)

    ✓ 投資助言業を取得・維持するには、組織・人(金商業者での実務経験者の確保等)要件を中心に、
      複数の要件をクリアし続ける必要があります。

    ✓ 投資助言業者は、金商業者として証券検査・協会検査等の検査対象になっています。
      万が一行政処分等に至った場合、その情報が公開され、金商業以外の他事業に影響がでる場合も。

    こうした要素をふまえ、将来的な事業展開はもちろん、長期的な適正人員の確保・兼業等を見据え、
    最適な申請主体を選択する必要があります。
  • 既に行っている他事業が、何らかの許認可を必要とする事業の場合は、複数の許認可の要件・ルール等に横断的に対応する必要があります。例えば、金商業の要件整備を重視するあまり、いつの間にか、他事業(例:宅地建物取引業・貸金業等)の要件に抵触してしまっていた…なんてケースもあるので、注意しましょう。

以上

[執筆者情報]

主任コンサルタント 行政書士 増野 佐智子

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