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【改正労働安全衛生法】化学物質管理者の選任が義務化されました!

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改正労働安全衛生法の新たな規制をまとめて解説

改正労働安全衛生法の一部が2024年4月1日に改正施行されました。
 
ポイントはいくつかありますが、特に注目すべきは化学物質のリスク評価と対策の強化です。
具体的には、化学物質管理者の選任や、定期的なリスク評価の実施と結果の報告が義務化され、リスク低減措置を講じることが求められるようになります。
 
企業は迅速に対応策を講じる必要があり、適切な対応を行わない企業には法的なリスクが伴います。
そのため、改正のポイントをしっかりと把握し、実務に反映させることが不可欠です。

労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要

労働安全衛生法施行令は、労働者の安全と健康を確保するための重要な法規制です。
特に化学物質の取り扱いに関しては、厚生労働省によって厳格なリスクアセスメントと管理体制の強化が進められています。
なかでも改正労働安全衛生法施行令は、企業が取り扱う有機溶剤やその他の対象物質に対して、新しい規制を導入し、それらのリスクを十分に評価することを求めています。
 
具体的には、労働安全衛生法やその施行令、また労働安全衛生規則の改正により、企業は化学物質の安全性を確認するためのリスクアセスメントを実施し、管理体制を整備する必要があります。
厚生労働省による発表によれば、国内で取り扱われる化学物質の数は数万種類にのぼり、その中には危険性や有害性が不明なものも多く含まれます。

改正前の状況では、化学物質を原因とする労働災害は年間450件程度で推移しており、遅発性疾病も報告されています。
これを受け、2024年の改正により具体的な対策が導入され、企業の負担と責任がより明確化されました。
企業の安全衛生担当者や法務・コンプライアンス部門のスタッフは、これらの変化を理解し、迅速に対応策を講じることが求められます。
 
この新たな規制の詳細と、企業側に求められる対応を以下に一つずつ解説します。
改正された労働安全衛生法の重要ポイントを把握し、厚生労働省からの指示に従い、適切なリスクアセスメントを実施することが、労働者の安全と健康を守るための鍵となります。

化学物質管理者の選任の義務化

改正労働安全衛生法により、企業は化学物質の管理を専門に行う管理者の選任が義務付けられました。
この選任はリスクアセスメント対象物を製造、取扱い、または譲渡提供する全ての事業場に適用されます。
化学物質管理者は各事業場ごとに選任され、一般消費者向け製品のみを取り扱う事業場は対象外です。
 
管理者の職務には、ラベルやSDS等の確認、化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理、リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選定・実施の管理、化学物質の自律的な管理に関わる記録の作成・保存、労働者への教育が含まれます。
企業の安全衛生担当者や法務・コンプライアンス部門のスタッフは、これらの具体的な対策と実施方法を深く理解し、徹底することが求められます。
 
この取り組みにより、化学物質の取り扱いや保存に伴うリスクが低減され、従業員の健康診断結果にも良好な影響を与えることが期待されます。
以上の詳細を把握し、実務に反映させることが、企業の安全衛生向上に直結します。

保護具着用管理責任者の選任も義務化

また、化学物質管理者の選任と同時に、保護具着用管理責任者の選任も義務化されました。
これは、化学物質取り扱い時の安全対策として適切な保護具の使用を確保するための措置です。
保護具着用管理責任者は、従業員が適切な保護具を確実に使用しているかを管理・監督します。
このような管理体制の強化により、労働者の曝露リスクが大幅に軽減されることが期待されます。
同時に、リスクアセスメントに基づいた措置として、選任が必要な事業場においては効果的な管理が可能となります。

保護具着用管理責任者は、有効な保護具の選択や労働者の使用状況の管理に関する業務を担当し、一定の経験及び知識を有する者が選任される必要があります。
この新たな規制は2024年4月1日に施行され、企業の安全衛生体制のさらなる向上が求められます。

雇い入れ時等教育の拡充

改正労働安全衛生法では、雇い入れ時や作業内容の変更時の教育の拡充が義務付けられました。
新たに採用された従業員や作業内容が変更された従業員に対し、化学物質の取り扱いや保護具の使用方法、安全管理の重要性について十分な教育を行うことが求められます。
この変更は、労働者が化学物質に関する知識を深め、予期せぬ事故を防ぐための措置です。

さらに、2024年4月1日に施行された新規定により、特定の業種で認められていた教育項目の省略が廃止されました。
これにより、危険性・有害性のある化学物質を製造または取り扱うすべての事業場で、必要な教育が徹底されなければなりません。
この規制強化により、企業の安全衛生担当者や法務・コンプライアンス部門のスタッフは、法規制に準じた効果的な教育プログラムを策定し、従業員への知識普及を徹底する必要があります。

その他の改正

改正労働安全衛生法では、従業員の安全と健康を確保するための新要件が他にも多く導入されました。

新たな化学物質規制では、危険物質使用時のリスクアセスメントの実施が義務付けられ、その結果を従業員に周知することが求められます。
これにより、従業員の健康障害を未然に防ぎ、適切な化学物質管理が徹底されます。

また、従業員のストレスチェック制度の強化も改正点の一つです。
企業は定期的なメンタルヘルスケアを行い、結果に基づいて必要な対応を講じる必要があります。
これにより、職場環境の改善と従業員のメンタルヘルス向上が期待されます。

さらに、在宅勤務やリモートワークが増加する中、新たに導入された労働時間管理の指針に従うことで、適切な労働時間の把握と健康管理が実現します。
企業はこれらの新要件を確実に遵守し、持続可能な労働環境を提供することが求められます。

ラベル表示・SDS等

新しい化学物質に関する規制では、ラベル表示と安全データシート(SDS)の整備が強化されました。
企業は化学物質を取り扱う際に適切なラベル表示を行い、SDSを提供する義務があります。
労働安全衛生法に基づき、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された全ての物質が対象です。

具体的には、発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性、急性毒性のカテゴリーで区分1に分類された234物質がラベル表示等の義務対象に追加されました。
この物質に対しては、ラベルに物質の特性や安全取扱方法に関する情報を明確に示し、SDSを従業員が容易にアクセス可能な形式で提供する必要があります。
これにより、労働者が使用する化学物質のリスクとその対策について理解を深めることができます。

なお、2024年4月1日から施行されたこの規制には経過措置があり、2025年3月31日まで既存の物質にはラベル表示義務の規定が適用されません。
追加される対象物質の詳細は、労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所化学物質情報管理研究センターのウェブサイトで確認できます。
企業の安全衛生担当者や法務・コンプライアンス部門のスタッフは、これらの改正に迅速に対応することが求められます。

リスクアセスメント要件

改正労働安全衛生法はリスクアセスメントの実施を義務付けています。
その実施により、働く環境に潜む危険要因を特定し、それに対する適切な対策を講じることが求められます。
リスクアセスメントの具体的な手順は、まず作業工程の各段階で潜在的なリスクを洗い出し、その影響度と発生頻度を評価します。
さらに、リスク削減対策を策定し、実施することで労働環境の安全性を向上させることが可能です。

なお、2024年4月1日に施行された新たな法規制に基づき、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置が義務付けられました。
特に、厚生労働大臣が定める濃度基準値設定物質については、屋内作業場でのばく露が濃度基準値以下であることを確認する必要があります。
これにより、労働者に対する健康障害のリスクを最小限に抑えることが強調されています。

障害等防止用保護具の使用

改正労働安全衛生法により、企業は労働者に対して障害防止用保護具の使用を義務づけられるようになりました。
厚生労働省が定める有害物質一覧からリスクアセスメントを行い、対象物質に対して適切な保護具を選定する必要があります。
有害物質には皮膚・眼刺激性、皮膚腐食性、または皮膚から吸収され健康障害を引き起こすものが含まれます。
例えば、化学物質を扱う作業場では防護手袋やゴーグルの着用が必須であり、危険区域では耐火服や安全靴が推奨されます。
 
2024年4月1日から、これまで努力義務だった保護具の使用が正式に義務化されます。
企業は状況に応じて適切な保護具を準備し、従業員にその使用を徹底させる責任があります。
例えば、健康障害を起こす恐れのある物質を取り扱う業務に従事する労働者には、保護眼鏡、不浸透性の保護衣、保護手袋や保護靴の使用が必要です。

衛生委員会の付議事項の追加

改正労働安全衛生法により、衛生委員会の付議事項が追加されました。
企業は、定期的に衛生委員会を開催し、新たな衛生管理課題について議論する必要があります。
具体的には、作業場の新たなリスク評価や、リスクアセスメントの結果に基づく健康診断の結果とその管理策の見直しが求められます。
また、従業員からの安全衛生に関する意見や提案を受け付け、それを反映した改善策の策定も重要です。

さらに、化学物質の自律的な管理の実施状況を調査審議することが義務付けられています。
具体的には、

①労働者が化学物質にばく露されるリスクを最小限にするための措置
②濃度基準値設定物質についての措置
③リスクアセスメントの結果に基づくばく露低減措置
④濃度基準値設定物質に対する健康診断結果に基づく措置

が求められます。
 
これにより、衛生委員会は改正法に対応した具体的かつ効果的な対策を計画・実施する役割が一層強化されます。
労働者数50人未満の事業場も関係労働者からの意見聴取の機会を設け、これらの事項について適切に対応する必要があります。

労働基準監督署長による指示

改正労働安全衛生法では、労働基準監督署長の指示が拡大されました。
企業は監督署長の指示に従い、必要な対策を迅速に行う義務があります。
例えば、労働基準監督署長が労働環境の改善を指示した場合、その内容に基づき速やかに対策を講じる必要があります。

また、指示に従わない場合は罰則が適用される可能性があるため、十分な注意が必要です。
特に、労働災害の発生またはそのおそれのある事業場について、2024年4月1日施行の改正法では、化学物質の管理が適切に行われていない疑いがある場合、労働基準監督署長は事業者に対し改善を指示することができます。
改善の指示を受けた事業者は、化学物質管理専門家(厚生労働大臣告示で定める要件を満たす者)から助言を受けた上で、1か月以内に改善計画を作成し、労働基準監督署長に報告するとともに、必要な改善措置を実施しなければなりません。

健康診断の実施・記録作成等

厚生労働省が定めた改正労働安全衛生法により、企業は有機溶剤を含む化学物質の取り扱いに関する健康診断の実施と記録作成を強化しなければなりません。
事業者はリスクアセスメントの結果に基づき、ばく露低減措置の一環として健康診断を実施し、その結果を適切に管理する義務があります。
具体的には、労働者の意見を参考にしつつ、医師または歯科医師が必要と認める項目の健康診断を行い、その結果に基づいて必要な健康管理策を適用することが求められます。

また、労働者が濃度基準値を超えてばく露した可能性がある場合は、速やかに健康診断を実施し、結果を5年(がん原性物質の場合は30年)保存する必要があります。
これにより、従業員の健康状態を継続的に把握し、安全な作業環境を提供することが期待されています。

労働安全衛生法の改正 まとめ

2019年以降の労働安全衛生法(安衛法)の改正は、多くの企業にとって重要かつ影響の大きな出来事です。
特に新たな化学物質規制の導入に伴い、化学物質管理者の選任が義務化され、安全衛生管理体制の強化が求められています。
この改正に対応するためには、企業の安全衛生担当者や法務・コンプライアンス部門のスタッフが現行の規制を理解し、適切な化学物質管理者を選任することが重要です。
選任された化学物質管理者は、化学物質のリスクアセスメントを実施し、適切な管理措置を講じることが求められます。
具体的な対応方法としては、定期的な教育・訓練の実施、使用する化学物質のリスト作成、そのリスク評価と管理策の更新が挙げられます。
これにより、法令遵守だけでなく、労働者の安全と健康を守ることができます。

規制対応漏れ・コンプライアンス違反を防ぐには

■ 規制への対応漏れや自覚のない“コンプライアンス違反”を防ぐには・・・

1️⃣ そもそも対応すべき規制・その内容を漏れなく・タイムリーに把握すること

貴社業務を行う上で対応すべき規制が何で/どのような規制なのかを、漏れなく把握することが重要です。日本の規制・許認可制度は複雑で、一見無関係に見える法規制が業務に関連していることも多々あります。また、一度洗い出したら終わりではなく、定期的に/新規事業開始時等の都度、見直しを行う必要があります。

2️⃣ 規制内容・貴社事業への影響等を考慮し、適切な管理体制・態勢を構築すること

対応すべき規制が明確になった後は、各規制の重要度・貴社への影響等を考慮し、緩急をつけた/貴社にマッチした管理体制・態勢(実務マニュアルやチェックシート等)を構築しましょう。一定管理態勢は構築済だが、昔からあるマニュアルを過信し使い続けていたり、厳格なルールにしすぎて規程が形骸化しているケースもあります。

3️⃣ 定期的なチェックを行い、不正や問題の発生をモニタリングすること

対応すべき規制を特定し、必要な管理態勢を構築したら終わり・・・ではありません。決定したルールが、適切に実行されているか/新たに対応すべき規制等はないか/実務面で規制違反に繋がるような問題等が生じていないか(その恐れを含む)を定期的に確認し、改善対応・再発防止を講じる必要があります。

行政書士法人による「規制一括管理」サポートのご案内

弊社では、クライアントの規制対応の実施状況や課題等に応じて、主に以下の支援を提供しています。

対象規制等の洗い出し

ヒアリングや実態調査の結果を通じ、現在の事業内容及び今後の事業展開をふまえ、キャッチアップ/留意すべき法規制等を洗い出します。

社内で洗い出した規制一覧に、外部の目線を入れることで抜け・漏れを予防したり、定期的な適用規制の見直しにも、活用いただけます。

対象規制への対応

洗い出した法規制等への適切な対応に向け、必要な支援を、弊社コンサルタントが一定期間伴走する形で実施します。
 

支援内容例

  • 必要な社内体制・業務フローの構築支援
  • 効果的な規程・マニュアル等の策定支援
  • 各種法令やガイドライン等の法改正アラート配信
  • チェックリスト・実務様式の策定支援
  • 役職員の教育・研修(コンプライアンス指導等)
  • 許認可一括管理・資格者一括管理(有効な資格管理・更新)
  • 行政相談・行政相談同行  
  • 新規事業・法改正時の規制調査・規制リスト作成  等

規制対応状況の監視・モニタリング支援

洗い出した法規制等への対応状況、社内規程等の実行状況等、規制対応に関する不正・問題発生等の確認・監視を目的に、業務の実態調査(内部監査)を実施します。

予備・実地調査後、規制対応に関する不備事項・問題点等を洗い出し、報告書として報告します。(ご希望に応じて、講評会・改善支援も可)