東 周平

【個人的学習記録】法令条文の構造的・構文的読解には「型推論」が便利



東(アズマ)です。
私は数学科出身で、この会社に入ってから初めて「法令を読む」ことに出会いました。
実務上の経験を通して、「法令条文を読む上での難点」と、それを克服するための指針を、備忘録的に書きます。
※この記事の内容は、全て体験記・学習記録的な記載であり、正確性は一切保証しません。

まず、私はある時まで、「”又は”や”及び”など、条文の構造を支配する語を把握すれば、そこから構造を復元できるのでは」という直観を持ってました。

「A又はB」なら、AとBが並置されているし、「A又はB若しくはC」なら、BとCが並置、Aと「B若しくはC」が並置されている……というように。
「又は」と「若しくは」のレベルの違いとか、基本的な書法がわかれば、うまくいくと思ってたんですね。

しかし、この直観に対する反例は、いくらでも構成可能です。

例1:A及びBを雇用する者

  • パターン1:A=アズマさん B=シュウヘイさん
          →「アズマさんとシュウヘイさん」を雇用する事業者
  • パターン2:A=サポート行政書士法人 B=アズマさん 
          →サポート行政書士法人と「アズマさんを雇用する者」


例2:A及びB又はCをDする者

  • パターン1:A=大企業 B=若手 C=外国人 D=雇用
          →大企業及び{「若手又は外国人」を雇用する者}
  • パターン2:A=リンゴ B=バナナ C=鮮魚 D=販売
          →{「リンゴ及びバナナ」又は鮮魚}を販売する者
          ※{リンゴ及び「バナナ又は鮮魚」}を販売する者も構文的には可


ここで、「一意に構造が解釈できる文構造にするべきではないか」という疑問が浮かびますが、実際の法令条文では、AやBなどがもっと複雑な構造を持つことがあり、安易に構造を変化させるのが難しいのも実情です。
実際に、そういう条文が現れてきてしまうことは受け入れた上で、「なぜ何通りもの構造が現れてしまうのか?」を考えてみましょう。

すると、自然と「型が違うから構文も違うのだ」という結論に行き着きます。

例1では、A=B=人(従業者)なのか、A=事業者、B=従業者なのかで、2通りの構造が考えられました。「従業者」と「事業者」の型の違いが、構造を分けています。

例2では、少しテクニカルですが、A=「Dすることが可能な型」だとパターン1、A=「Dをされることが可能な型」だとパターン2になります。ここでも、型の違いが、構造を分けています。

このように、条文の構造を支配するのは、「(特に、”又は”等の文法的な)語」だけではなく、実際に使われている語の「型」も、構造を支配しています。

私が実務上、この「型」を考えるに至ったのは、QMS省令第83条第1項を読んだ時です。
現時点(2025/8/29)の法令をもとに、一部抜粋します。
これを、今の私の視点で、改めて分析してみます。

医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成十六年厚生労働省令第百六十九号)令和4年12月1日 施行
(登録製造所に係る製造業者等の製造管理及び品質管理)
第八十三条 製造販売業者等若しくは他の登録製造所により工程の外部委託を受けた事業所又は製造販売業者等若しくは他の登録製造所に対して購買物品等の供給を行う事業所が登録製造所である場合にあっては、当該登録製造所に係る製造業者又は医療機器等外国製造業者(以下「登録製造所に係る製造業者等」という。)における製品の製造管理及び品質管理については、第二章から第五章の二まで(第十九条第三号、第四十九条第二項及び第三項、第六十九条から第七十二条の三まで並びに第八十一条の二の六第二項及び第三項を除く。)の規定を準用する。ただし、当該製品について当該登録製造所が行う工程に照らし、その品質管理監督システムに適用することが適当でないと認められる規定は、その品質管理監督システムに適用しないことができる。この場合において、当該登録製造所に係る製造業者等は、当該製品に係る品質管理監督システム基準書にその旨を記載しなければならない。

前半の「登録製造所に係る製造業者等」の定義部分が、かなり入り組んでいます。
後半は素直に書かれているので、ここでは前半の読解に注力します。

まず、大雑把な構造で分けてみます。(”若しくは”と”又は”のレベルの違いを活用します)
A:製造販売業者等若しくは他の登録製造所により工程の外部委託を受けた事業所
B:製造販売業者等若しくは他の登録製造所に対して購買物品等の供給を行う事業所
とすると、

となります。
さて、Aの中身だけを見ると、2つ解釈が考えられます。

  • パターン1:製造販売業者等 若しくは 「他の登録製造所により工程の外部委託を受けた事業所」
  • パターン2:「製造販売業者等 若しくは 他の登録製造所」により工程の外部委託を受けた事業所

どちらのパターンなのか、Aの中身だけをみても、判別が付きません。
Bの中身だけをみた場合も、同様に、2パターンの解釈が考えられます。

ここで、どちらの解釈が正しいかを決定するには、全体構造をもとに、A・Bの型を決定する必要があります。

さて、全体構造は、さらに細かく分析できます。

上記の全体構造を元にすると、AもBも「登録製造所である」ことが可能な「型」であることが求められます。
このことを踏まえて、もう一度、Aの型のパターンを2つとも見てみます。

  • パターン1:製造販売業者等 若しくは 「他の登録製造所により工程の外部委託を受けた事業所」
  • パターン2:「製造販売業者等 若しくは 他の登録製造所」により工程の外部委託を受けた事業所

パターン2の型は、明らかに「事業所」です。
一方、パターン1の型は、「事業者 or 事業所」で、少し不安定です。
実際、「事業者」自身が「登録製造所」になるわけではないので、これは型が合わないです。
よって、パターン2の解釈が妥当だと(少なくとも私は)考えます。

Bの方も同様、型を元に解釈が決定されます。
以上を持って、AやBの内部構造も含めて、全体の構造が全て決定できます。

※備考:
構文だけで見ると、全体構造ver.2以外の、もっと酷い構造も、一考の余地はあります。例えば、

全体構造?:「A」又は「Bが登録製造所である場合にあっては、当該登録製造所に係る製造業者」又は「医療機器等外国製造業者」

という構造も、Aの中身を見なければ成り立ちます。
Aの中身まで見ると、色々と変です。
まず、形式的な側面。Aは「若しくは」で繋がれた2つの名詞句が並んでいるのみであり、この構造だと、Aの直後の「又は」とA内の「若しくは」でレベルを分ける必然性が薄いです。
次に、意味的な側面。この構造だと、A内の1つ目の名詞句として登場する「製造販売業者等」が、そのまま「登録製造所に係る製造業者等」に含まれる形になりますが、「登録製造所に係る」という趣旨がかかってないので、やはり意味的にも変です(実際、その後の準用規定も意味不明になります)。
そのため、今回私は、全体構造ver.2を元に考えています。

型を意識せずとも、「それっぽい読み方」「正しい読み方」に辿り着くことは、可能です。
また、実務上は、手段を型推論・構文読解にこだわる必要性もありません。意味の方面から攻めたり、そもそも行政資料でわかりやすいものが公表されていないかを見たり、時には役所に直接聞いてみたりなど、様々な手段の中で最適な方法を選び、組み合わせることが重要です。

一方、それでも型を意識するメリットは、「自分の今の読み方以外」へアプローチできることです。
違う「型」があり得ると気付ければ、全体の読解方法も整合的に変更することができます。
また、「自分の今の読み方以外の棄却材料」にも気付きやすくなります。(型がかけ離れているなら、読解間違い)

ふわっと意味を考えるだけだと、「他の意味・解釈もあり得るのでは?」という疑念を、どこかで断ち切って進めていくことになります。
「型」は「疑念を断ち切る道具」「思考を一本化して、シンプルに進める手法」として有効です。

また、実用性以外にも。
型を意識しながら読むと、立法に関わる人たちの頭脳・技術を感じることが出来て面白いのでオススメです。

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