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■保険業法の改正 ― 体制整備義務の強化等 ―

保険業界では、「ビッグモーター事件等の保険金不正請求事案」や「大手保険会社における不適切な保険料調整事案」等の問題が相次いで発覚。直近では、大手乗合型保険代理店に対する行政処分事例も続いています。


そんな中、保険業法の一部を改正する法律が、令和7年5月30日に成立。
6月6日に公布され、公布日から1年以内に施行される予定です。


法令等遵守責任者等の設置等、本質的な体制整備が必要になる、大きな法改正です。
本トピックスでは、予定されている改正内容についてポイントを解説します。

法改正の背景

保険業界では、「ビッグモーター事件等の保険金不正請求事案」や「大手保険会社における不適切な保険料調整事案」等の問題が相次いで発覚し、大規模な乗合代理店及び保険会社等に対する規制強化が検討されてきました。

今回の法改正では、こうした問題の再発を防止し、顧客本位の業務運営を徹底し健全な競争環境を実現する観点から、主に大規模な乗合代理店や保険会社に対する規制強化が規定されました。

法改正解説

今回の主な改正内容は、以下の通りです。

[改正①]特定大規模乗合損害保険代理店に対する体制整備義務の強化
[改正②]保険会社等に対する体制整備義務の強化
[改正③]保険会社等から保険契約者等への過度な便宜供与の禁止


[改正①]特定大規模乗合損害保険代理店に対する体制整備義務の強化

今回の法改正で新たに定義される「特定大規模乗合損害保険代理店」に対して、以下が義務付けされます。なお、特に大規模な乗合生命保険代理店に対しても、政令において同様の規定が設けられる予定です。

[1]法令等遵守責任者等の設置
 ・・・事務所等ごとに「法令等遵守責任者」を、本店等に「統括責任者」を設置

 
[2]苦情処理体制の整備義務
 ・・・外部からの苦情の適切な処理体制の整備義務
   更に、内閣府令で内部通報や内部監査体制の構築が求められる予定

 
[3]更に、特定大規模乗合損害保険代理店のうち「兼業特定保険募集人」の場合
 ・・・兼業業務が保険金の支払に不当な影響を及ぼさないよう監視する体制整備の義務化

現行の保険業法では、保険金から対価の支払いを受ける兼業(例:自動車修理業等)がある代理店に対して、当該保険金額の根拠となる修理費の適正性を担保する規定がなく、実態として、過大な修理費の請求や保険金の不正請求等が見過ごされていました。 
 
今回[3]で兼業特定保険募集人に対して、保険金の支払に不当な影響を及ぼさないよう、兼業業務を適切に監視する為の体制整備が規定され、顧客の利益・信頼を害する恐れのある事業・取引を特定した上で、そのリスクを適切に監視・管理することが必要となります。

「特定大規模乗合損害保険代理店」とは

「特定大規模乗合損害保険代理店」とは、今回の改正保険業法で新たに定義された用語です。

損害保険代理店のうち「複数の保険会社商品を扱う乗合形態で規模が大きい代理店」をいい、具体的な基準は内閣府令に委任されています。

参考になる材料として、「規模の大きい特定保険募集人」があります。

従前から保険業法には「規模の大きい特定保険募集人」という定義が存在し、具体的には、毎事業年度末において以下のいずれかに該当するものをいいます。(現行保険業法施行規則第236条の2)

①所属保険会社等の数が15以上であるもの
②当該事業年度において、2以上の所属保険会社等から受けた手数料等総額が10億円以上であるもの


金融庁「規制の事前評価書」では、この「規模の大きい特定保険募集人」は令和5年度において500社程度存在するとした上で、新たに創設される「特定大規模乗合損害保険代理店」は、「規模の大きい特定保険募集人」から更に絞り込まれる見込みです。

[改正②]保険会社等に対する体制整備義務の強化

改正保険業法では、保険会社、外国保険会社等及び保険持株会社に対して、兼業特定保険募集人等が行う取引により保険関連業務に係る顧客の利益が不当に害されることがないよう、当該保険関連業務に関する情報を適正に管理し、かつ、当該保険関連業務の実施状況を適切に監視するための体制の整備義務等が課されます。(改正保険業法第100条の2の2) 
 
保険金支払管理の適切性確保の観点から、内閣府令においては、保険会社等に対して、兼業業務に係る損害保険代理店の上記体制整備状況の監視・疑義がある兼業代理店に対する支払査定の厳格化、保険金支払管理部門と営業部門との適切な分離等が求められる予定です。

[改正③]保険会社等から保険契約者等への過度な便宜供与の禁止

現行保険業法においても、「保険契約の締結等に関する禁止行為」として、虚偽告知・重要事項の不告知・特別の利益供与等が挙げられ、禁止されています。

 
今回の改正保険業法では、既存の利益供与禁止規定に対して、その対象及び行為の範囲が拡大されます。
 

具体的には、以下の黄色マーク部分が追加され、いわゆる便宜供与行為も禁止されます。

(現行法)
[対象]保険契約者又は被保険者に対して
[行為]保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を行うこと 

 

(改正法)
[対象]保険契約者若しくは被保険者又はこれらの者と密接な関係を有する者に対して
[行為]保険料の割引又は割戻し、物品の購入、役務の提供その他の取引であって
    取引上の社会通念に照らし相当であると認められないものその他特別の利益の提供を行うこと

具体的に、「過度な便宜供与」に関する判断基準や整備すべき態勢等については、監督指針に規定されています。

終わりに

かねてより、保険会社と大規模乗合代理店との間では、取引実態において主従関係が逆転し、保険会社側が代理店の販売力に依存する構造が問題視されてきました。
 
今回の法改正は、そうした業界構造を是正し、本当の意味で、顧客本位の業務運営を実現・定着させることを目的としたものです。

今後、特定大規模乗合代理店や保険会社においては、形式的なコンプライアンス体制の整備にとどまらず、実効性ある内部管理体制の構築と運用が求められます。内部監査や内部通報制度、兼業業務の適切な監視等を通じ、いかに「形式」だけではなく「実質」としての経営管理(ガバナンス)を機能させられるかが重要です。

 
サポート行政書士法人でも、引き続き、保険会社を含む金融業界の事業者の方に向け、社内管理態勢の構築(コンサルティング)から監査支援まで、より実効性のある内部管理態勢の実現に向けた支援を提供していきます。

出典

・保険業法の一部を改正する法律案の概要(金融庁)
 https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/gaiyou.pdf  

・保険業法の一部を改正する法律案要綱(金融庁)
 https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/youkou.pdf   

・新旧対照条文(金融庁)
 https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/shinkyuu.pdf  

・保険業法の一部を改正する法律案 説明資料(金融庁)
 https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/01/setsumei.pdf

・規制の事前評価書(金融庁)
 https://www.fsa.go.jp/seisaku/r6ria/20250307_03.pdf

 
・保険会社向けの総合的な監督指針(新旧対照表)(案)(金融庁)
 https://www.fsa.go.jp/news/r6/hoken/20250512/shinkyu.pdf 

以上

[執筆者情報]

主任コンサルタント 行政書士 増野

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