■行政処分事例から読み解く(2025.08)
投稿日:2025年8月12日
報道発表 |
ー 保険代理店の経営管理態勢(ガバナンス)不備が相次ぐ行政処分に ー
- 2025年8月6日、関東財務局は、株式会社FPパートナー(以下「FP社」)に対して、保険業法第306条の規定に基づく業務改善命令が発出された。
FP社は、令和6年11月末時点で全国に174拠点・2,518人の保険募集人を有する、業界最大手の訪問型の乗合代理店。特定の保険会社を偏重した推奨行為、顧客の意向把握・確認義務の形骸化等が問題視され、今回の業務改善命令に至ったもの。
- 同じく2025年8月6日、東海財務局は、株式会社ネクステージ(以下「NX社」)に対して、保険業法第306条の規定に基づく業務改善命令が発出された。
NX社は、名古屋に本社を構える大手中古車販売会社で、保険代理店を兼業している。必要な体制整備義務違反、特定商品の推奨販売に関する説明不備(情報提供義務違反)等を理由に、今回の業務改善命令に至ったもの。
[出典]
・「株式会社FPパートナーに対する行政処分について」
https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/pagekt_cnt_202508.html (関東財務局HPより)
・「株式会社ネクステージに対する行政処分について」
https://lfb.mof.go.jp/tokai/kinyuu/kinyuu/20250801.pdf (東海財務局HPより)
規制解説 |
本トピックスでは、FP社に対する行政処分内容をベースに、保険業法等の規制を解説します。
1.顧客意向の把握義務
- 保険業法第294条の2(顧客の意向の把握等)では、保険会社等に対して、保険契約の締結その他勧誘行為に際して、「顧客の意向を把握」し、これに沿った保険契約の締結等の提案・内容説明・顧客意向確認機会の提供が義務付けられています。
更に「保険会社向けの総合的な監督指針」では、具体的な顧客意向の把握・確認方法やその対象、必要な体制整備に関する事項が規定されています。 - FP社の行政処分理由では、「保険募集人が意向把握・確認義務を果たしているか確認できる態勢が整備されていないことから、その適切性を担保できない状況」が挙げられており、実際「顧客の意向に合致しない商品を勧められたとする苦情」や「顧客意向と異なる商品を推奨している事例」が認められたと指摘されています。
2.顧客に対する情報提供義務(比較推奨販売の確保)
- 保険業法第294条(情報の提供)では、保険会社等に対して、保険契約の締結その他勧誘行為に際して、「保険契約の内容その他保険契約者等に参考となるべき情報の提供を行うこと」が義務付けられています。
特に、2以上の所属保険会社等を有する保険募集人、いわゆる乗合代理店においては、複数の保険商品を比較する、又は特定の保険商品を推奨して販売(比較推奨販売)する場合、販売方法に応じて、以下の説明を行うことが義務付けられています。(施行規則第227条の2第3項第4号イ~ハ)
比較説明を行う場合 | 当該比較に係る事項 |
顧客意向に沿って商品を選別し、商品推奨する場合 | 顧客意向に沿った比較可能な同種の保険契約の概要及び当該提案の理由 |
上記商品の選別をすることなく、特定の商品を提案する場合 | 当該提案の理由 |
- FP社の行政処分理由では、「保険会社からの便宜供与の実績に重点を置いて推奨商品の選定を行っている」点が挙げられており、実際「医療保障希望顧客に対し、同保障に対応した推奨商品のうち特定の保険商品のみを提案している事例が多数存在」が認められ、「合理的な理由なく特定の保険会社を偏重して推奨していることが強く疑われる実態」と指摘されています。

「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」第2条では、「顧客の最善の利益を勘案した誠実公正義務」が規定されており、これは保険会社等の業務も広く対象にされています。比較推奨販売を行う場合、保険業法だけでなく、当該法令等も遵守し、顧客の最善の利益を勘案した適切な業務実態を確保する必要があります。 |
3.保険契約の締結等に関する禁止行為
- 保険業法第300条では、保険契約の締結等に関する禁止行為として、重要事項の不告知、虚偽告知、特別の利益の提供行為等が挙げられてます。具体的には、「保険料・保険期間・補償内容等の重要事項を告げない行為」や「健康状態等の告知書への記入等を妨げたり、告知しないことを勧める行為」等が該当します。
- FP社の行政処分理由では、「大半の保険募集人に対し、成果連動型の報酬体系を適用(FP社が受領した代理店手数料に一定率を乗じた金額を報酬支給)」する中、保険募集人の本人契約(本人や同一生計家族の契約)について、当該報酬が支払われており、保険業法第300条第1項第5号(保険契約者又は被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を約し、又は提供する行為)への違反が指摘されています。
また、FP社では、法令等遵守状況のモニタリングを実施することとしているが、多件数・多額契約等の不適切な募集に関するモニタリングを実施する態勢を構築しておらず、「多件数・多額契約や短期間での乗換、解約を繰り返す保険募集人が複数存在する」にも関わらず、こうした実態を把握できていないとして、法令等遵守態勢確立の必要性を指摘されています。

この他にも、FP社の行政処分理由として、「適切な保険募集管理態勢」や「顧客に対する情報提供義務、意向把握・確認義務を着実に実施するための態勢」の不備を理由に、実効性のある管理態勢の確立が指摘されています。 |
専門家の視点 |
- 今回、FP社の行政処分にあわせて複数の保険会社に対して報告徴求命令を発出しているとされており、今後も更に問題が発展する可能性があります。
- 「保険会社と保険代理店との適切な関係性の確保」「保険会社の保険代理店に対する指導等の実施」「適切な保険募集実態の確保(適切な比較推奨販売の確保等)」は、かねてより議論され、過去の行政処分や各種法令や監督指針等への規定等が進んでた要素ですが、今回の行政処分に関する一連の対応(この行政処分に至るまでの間に、FP社の業務実態に関する報道発表もあり、金融庁等による検査・ヒアリング等も実施されてきました)を通じて、更にその「実態」にメスが入る形となり、行政処分の内容を見て、戦々恐々、襟を正した事業者も多いのではないでしょうか。
保険会社や保険代理店では、「必要な社内規程を整備」し、「保険会社による監査に対応」する等、形式的な要素はクリアしているところが多い印象ですが、その実態を見ると、以下のような問題を抱えているケースも少なくありません。
✓ 社内規程上「定期的なモニタリング」と規定しているが、実際に何をどうすればいいか分からず、
とりあえず、必要な法定書類の有無等、形式的な確認に留まっている
✓ 代理店側の業務に支障がない範囲で形式的に監査を行っている為、
実態に踏み込んだ監査は実施できていない
✓ 多数の代理店の監査を行っているが、監査項目や監査方法が代わり映えせず、
代理店側もお決まりの監査といった感じで、監査の実効性が薄れてしまっている
- 今回の行政処分とは別に、保険業法や監督指針の改正が予定されており、いずれも「実態重視/実効性ある管理態勢」を重視した、様々な規定が盛り込まれる予定です。
大規模な保険代理店や保険会社向けの改正が主ですが、保険会社・保険代理店ともに、形式的な部分に留まらず、実効性のある管理実態が求められる流れにある為、規模の小さい保険会社や業務比率の低い兼業保険会社は、こうした流れに対応することができず/採算に見合わず、淘汰されていく可能性があります。
また、実効性のある管理態勢を構築する為には、「セルフチェック/自己点検」ではカバーできない部分の補強や、現場に忖度せず経営管理実態も含めて監査する姿勢が求められ、その意味で、第三者機関による監査等、効果的な「外部の活用」も促進していくことが想定されます。(とはいえ、「外部に委託したからOK」ではなく、そもそもの適切な外部委託先の選定から、委託業務の評価・モニタリングも含めた態勢が必要ですが)
[参考]
・「金融審議会 損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ(事務局説明資料)」
https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo_wg/siryou/20241115/2.pdf
・「「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書」
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20241225/1.pdf
以上
[執筆者情報]

この件に関するお問い合わせ。ご相談はこちらから