暗号資産交換業の登録申請の流れや要件、注意点を解説
更新日:2025年5月22日
◆もくじ◆
どういう時に仮想通貨交換業登録が必要?
暗号資産交換業の登録(仮想通貨交換業の登録)が必要になるのはどのような時でしょうか。法令では「特定の行為」を「事業として行う」場合に仮想通貨交換業登録が必要とされています。
法律上の区分では「特定の行為」は以下の6つです。
区分 | 内容 | 備考・イメージ |
---|---|---|
売買 | 事業者が利用者に対して仮想通貨と法定通貨の売買を行うこと | 一般的に「仮想通貨販売所」が実施 |
交換 | 事業者が利用者に対して仮想通貨同士の交換を行うこと | 一般的に「仮想通貨販売所」が実施 |
取次ぎ | 利用者から依頼を受け、事業者自身の資金で仮想通貨の売買・交換を行う | 商社のように「安く買って高く売る」 |
代理 | 利用者から依頼を受け、利用者の代理人として仮想通貨の売買・交換を行う | 「購入代理」のイメージ |
媒介 | 利用者同士の間に立ち、仮想通貨の売買・交換を仲介すること | 一般的に「仮想通貨取引所」が実施 |
管理 | 上記5つの行為に関する利用者の金銭・仮想通貨を管理すること | いわゆる「ウォレット」。管理のみなら登録は不要 |
それでは「事業として行う」とはどのようなことでしょうか。
事務ガイドラインでは「対公衆性」があってかつ「反復継続性」をもって行うこととされていますが、実際にどのような具体的行為が「対公衆性」があって、かつ「反復継続性」をもつと考えられるかは個別のケースごとに判断されることになります。
しかし一般的にはビジネスとして行うときには「事業として行う」と捉えられることが多いでしょう。
登録要件
登録要件の概要
仮想通貨交換業の登録要件の概要は、下記のようになっています。
項目 | 要件内容 |
---|---|
組織について | 株式会社または国内に営業所を有する外国仮想通貨交換業者であること |
財産について | 資本金が1,000万円以上であること・債務超過でないこと |
業務遂行体制について | 仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていること |
法令順守体制について | 仮想通貨交換業者に関わる法令を遵守するために必要な体制の整備が行われていること |
商号について | 他の仮想通貨交換業者と同一または類似の商号・名称を使用しないこと |
他に行っている事業について | 他に行う事業が公益に反しないこと |
業務執行体制と法令順守体制について
「登録要件の概要」のうち、キーポイントは「業務遂行体制について」と「法令順守体制」です。
それら以外は簡潔でわかりやすいのですが、しかし「業務遂行体制について」は「仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていること」、「法令順守体制」は「仮想通貨交換業者に関わる法令の規定を遵守するために必要な体制の整備が行われていること」と、抽象的な定義しか法律では規定されていません。
これは、「法律ではざっくりと決めるから、詳しいことは事務ガイドライン(第三冊:金融会社関係16.仮想通貨交換業者関係)を見てね」という理由からです。
この事務ガイドライン(第三冊:金融会社関係16.仮想通貨交換業者関係)で決められたルールが膨大な量に上ります。
マネーロンダリング対策から顧客情報管理、仮想通貨や金銭の分別管理まで、仮想通貨交換業登録を目指す事業者が超えるハードルは多岐に渡ります。
分量でいうと、ルールが書かれたページだけでもA4用紙で60枚近くに上ります。
参考:事務ガイドライン(第三冊:金融会社関係16.仮想通貨交換業者関係)
http://www.fsa.go.jp/news/28/ginkou/20170324-1/19.pdf
申請の流れ
事業者が仮想通貨交換業登録を申請しようとする場合、どのような手続きを踏むのでしょうか?
弊社では大きく3つのステップに分けてご説明しています。
① 概要書等の作成及び当局ヒアリング(財務局や金融庁など)
最初のステップは概要書等の作成及び当局面談です。
概要書とは仮想通貨交換業事業の概要を示した書面で、申請者の概要、どのような人員体制で臨むのか、扱う仮想通貨はどのようなものかといったことを記載します(概要書「等」としたのは、概要書だけではなくその他の書面も後述する当局とのヒアリングに必要だからですが、ここでは説明を省略します)。
概要書等ができたら管轄の財務局、財務事務所若しくは金融庁にそれらを送り、ヒアリングを申し込みます。
ヒアリングでは申請者の法人の中で仮想通貨交換業登録に詳しい方が行くのが通常で、弊社も同席は可能ですが、主に申請者が話すことを求められます。
弊社で担当する申請者の方には、希望によりこれまでの事例を基にヒアリングのシュミレーションをしています。
② 提出書類の作成及びドラフト審査
当局ヒアリングが終わると提出する申請書類の作成をして、それを当局に提出し、ドラフト審査に入ります。
提出する書類は多岐に渡りますので、この段階で一定の期間を要するのが通例です(当局が公表している情報だと通常は2~3カ月)。
それらの書類を提出する際は後述の「チェックリスト」に基づきドラフト審査が行われます。
都度当局からの質問や補正がありますので、それらに対応してドラフト審査を進める形になります。そして当局から申請して良いと言われたらステップ②は終わりです。
③ 本申請及び審査
登録免許税を支払い、書類に捺印をして、管轄の財務局又は財務事務所に申請書類一式を提出します。
標準処理期間は2か月。
しかし審査中も当局からの質問や補正があり、それらに回答をしていない間は標準処理期間が進まないことに注意が必要です。
審査が終了し登録の許可が下りれば登録簿に登録され仮想通貨交換業事業が開始できるようになります。
審査は「チェックリスト」に基づいて実施
仮想通貨交換業登録申請は「チェックリスト」に基づいて審査をされます。
チェックリストとは提出書類の一つで、登録要件のチェック項目に対して一つ一つ回答をする形になっています。
現状のチェックリストのチェック項目は法令等遵守、利用者保護のための情報提供・相談機能等、事務運営に関わる166項目。
基本的にはそのチェック項目に対応する社内規程やマニュアルの条文を記載し、かつ申請者として実際にどうするのか?という具体的行動も記載をしていきます。
そのため、イメージとしてはこのチェックリストをもとに提出書類を作成していくことになります。
仮想通貨交換業登録申請は「ハードル走」
仮想通貨交換業の登録申請は、ハードル走に似ています。
どういうことかというと、仮想通貨交換業の登録申請というのは、事業者の財政基盤は十分か、利用者を保護するために適切な情報を伝えているか、犯罪組織やテロ組織へお金が流れないような対策をしているかといったハードル(クリアすべき課題)の全てを、一つ一つ飛び越えていくプロセスだからです。
このハードルは全て飛び越える必要があります。
一つでも飛び越えられなければ当局からストップがかかり、登録にはいたりません。
最近のビジネスでは「ゆっくりやって100点より早く80点のものを出せ」と言われますが、仮想通貨交換業の登録については「減点をゼロにしろ」なのです。
ですので、例えば事業者の財政基盤や利用者保護の体制等、他の全ての項目が飛び抜けてしっかりしていても、唯一、犯罪組織へのお金の移転を止める体制がザルならば、登録はできなくなってしまいます。
登録という行政手続
なぜ、仮想通貨交換業登録はハードル走のようになるのでしょうか?
あくまで個人的な見解ですが、仮想通貨交換業の「登録」という行政手続が要因のように思えます。
日本の行政手続きは、許可、認可、免許、特許、登録、届出といった種類があり、それぞれ特徴があります。
例えば外国人が日本に滞在するために必要な在留資格を得るには「許可」が必要ですが、管轄する入国管理局の裁量権が比較的大きく、要件を全て満たしても(ハードルを全て飛び越えても)、担当者の判断で許可されない可能性は残ります。
逆を言えば、仮に一つの要件に少々怪しい部分があっても、全体的に見て申し分のないものならば、担当者の判断で許可されるケースも実際にあります。
一方、「登録」は役所の裁量権が比較的小さく、原則として要件を全て満たしていれば(ハードルを全て飛び越えれば)、役所はOKにしなければなりません。
だからこそ、役所は「(要件を全て満たせばOKになるのだから)要件を全て満たしてよ」となり、間違いが一つもないかチェックするようになったのだと思います。
事業者としてはどうするべきか?
それでは、事業者としてはどのようにするべきでしょうか?
前述したように仮想通貨交換業登録申請はハードル走のようなもので、全てのハードルを一つ一つ飛び越えていく以外にありません。
どれかのハードルで素晴らしく高く飛ぶ必要はなく、例えば及第点しかいかなくても全てのハードルをきちんと飛び切ることが重要です。
そのため事業者としては、当局が求めている要件の一つ一つの具体的内容(※1)を知り、それらに合わせて事業体制を整え、社内規定類を含めた申請書類を作成していくという地道なプロセスをこなしていくことになります。
もちろん、実際の事業体制や実現したいこともありますので、それらとの兼ね合いも取りつつ、上手に登録に向けてバランスを取っていくことも必要性も出てきます。
(※1)・・・要件の詳細な内容は事務ガイドラインに記載
http://www.fsa.go.jp/news/28/ginkou/20161228-4/29.pdf