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FATFがマネロンの過剰対応の見直しを要請、低リスク取引は簡素な本人確認に


FATF(金融活動作業部会)は2025年2月の会合で、犯罪性が極めて低い取引に対する過剰な本人確認プロセスを見直し、リスクの程度に応じた柔軟な措置を講じるよう加盟国・地域に要請する内容の改定を行いました。

本記事では、このFATFの要請内容と背景について解説します。

FATFは1989年に設立され、39の加盟国・地域で相互審査を実施する国際機関です。
その審査方針を示す40の「勧告」は200以上の国・地域で参照・適用され、マネーロンダリング(資金洗浄)対策の国際的基準となっています。
2025年2月には「勧告1」を改定し、リスクベースアプローチの明確化と金融包摂の促進を重視する方向性を打ち出しました。
この改定は、2025年6月のストラスブールで予定されているFATF総会で採択見込みの金融包摂に関するガイダンスにも反映される予定です。

FATFの役割と審査体系

FATFは加盟国・地域の法制度や運用状況を定期的に審査し、改善点を指摘します。
審査は文書レビューだけでなく、現地訪問や担当者インタビューも含み、詳細な運用実態を確認します。
勧告に基づき各国は法改正やガイドライン整備を進め、疑わしい取引報告(STR)制度の運用強化など具体策を講じています。

勧告1改定の主なポイント

  • リスクベースアプローチの明確化:リスクの程度に比例した(proportionate)対応が明記され、金融機関等は強度を調整可能に。
  • 低リスク取引の簡素化:リスクが低い取引に対しては簡易CDD(顧客確認手続)を許容。
  • 高リスク取引の強化:匿名性の高い手段や国際送金などは強化されたCDDを義務付け。
  • デジタルIDの活用促進:信頼性の高い電子本人確認手段の活用を容認。

従来、金融機関はあらゆる顧客・取引に対して画一的なCDDを実施する傾向にありました。
これにより、低リスク取引にも過剰な対応がなされ、効率的な資源配分が妨げられていたと指摘されています。

合法取引と疑わしい取引の区別強化

顧客の取引履歴、業種、地域特性などを踏まえ、通常の企業間送金や給与振込などは「低リスク」と位置付け。
一方で、小口反復送金、不自然なドル循環取引、複数アカウントを利用した送金などは「高リスク」として重点的な対応が求められます。

金融排除と包摂のバランス

新興国では一律厳格化による「金融排除」が深刻化しています。
FATFはデジタルIDや顧客申告型本人確認(セルフアテステーション)などの技術的手段により、正式な金融サービスへのアクセスを促進するよう加盟国に呼びかけています。

顧客や取引のリスク評価を行い、ハイリスクには強化CDD、ローリスクには簡易CDDを適用するという運用が求められます。
このアプローチをシステム的に実装することで、効率的かつ効果的なAML体制の構築が可能となります。

顧客分類と重点審査体制

  • ハイリスク(H):匿名性が高い手段の利用者、頻繁な国際送金利用者などに専任チームが対応。
  • ミドルリスク(M):業種・地域等で中程度のリスクを有する顧客に対して定期的な確認を実施。
  • ローリスク(L):基本的な情報更新や簡易な本人確認により対応。

デジタル技術の導入事例

AI・機械学習によるトランザクションモニタリングや、ブロックチェーン技術を活用した追跡ツールが不正取引の検出を支援します。
さらに、バイオメトリクスやモバイルID連携など、電子的な本人確認手段の普及も進んでいます。

メガバンクは2024年にマネロン対策専任組織を設置し、デジタルID活用による自動化を試験導入。
地方銀行では、TSUBASAアライアンスやマネー・ローンダリング対策共同機構などによるAIベースの取引判別支援が導入されています。

日本は2021年のFATF第4次相互審査で「重点フォローアップ国」とされましたが、その後の改善を通じて技術的な不備を是正し、現在は第5次相互審査に備えた通常の監督段階に入っています。
金融庁は監督ガイドラインの更新や評価指標の整備を進めています。

FATFの勧告改定により、低リスク取引に対する柔軟な対応が制度的に認められるようになりました。
事業者はCDDプロセスの見直しとAML体制の効率化に向け、リスクベースアプローチの実践を強化する必要があります。
さらに、デジタルIDやAI技術を活用しつつ、2025年以降の国際的な審査に対応できる体制整備が求められています。

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