■資産運用立国の実現に向けて(2023.12)

報道発表

  • 2023年12月13日、政府は、家計金融資産等の運用を担う資産運用業・アセットオーナーシップの改革等を図る為、以下を柱とする「資産運用立国実現プラン」を策定。

     ①資産運用業の改革             ②アセットオーナーシップの改革
     ③成長資金の供給と運用対象の多様化     ④スチュワードシップ活動の実質化
     ⑤対外情報発信・コミュニケーションの強化

  • 政府は、これまでも「日本の家計金融資産の半分以上を占める現預金が投資に向かい、企業価値向上の恩恵が家計に還元されることで、更なる投資や消費につながる“成長と分配の好循環”を実現していくこと」の為に、「資産所得倍増プラン(2022年11月)」や「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム(2023年4月)」を実施してきた。具体的には、NISAの抜本的拡充や金融経済教育の充実等の様々な取組を推進しており、今後も継続的に推進する方針。

  • 既存の取組の一方で、インベストメントチェーンの残されたピースとして「家計金融資産等の運用を担う資産運用業とアセットオーナーシップの改革」が必要である為、今回「資産運用立国実現プラン」を策定。「資産運用立国実現プラン」では、具体的に、以下の取組みを規定し、各進捗状況を2024年6月目途に確認する予定。

(出所:金融庁「資産運用立国について」より)

(参考)

・金融庁「資産運用立国について」
・内閣官房「資産運用立国実現プラン」
・金融庁「資産運用立国実現プラン(概要)」
金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」・「資産運用に関するタスクフォース」報告書その概要

解 説

■ 「資産運用立国実現プラン」に基づく具体的な取組みとその影響  

「資産運用立国実現プラン」では、以下の通り、5つの柱ごとに具体的な施策が挙げられています。
既存の金融商品取引業者への影響を含め、具体的な施策内容を見ていきます。

(出所:金融庁「資産運用立国について」より)

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■大手金融グループへの影響
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  • 資産運用において大きな役割を担っている大手金融グループにおいて、顧客の最善の利益を勘案した運営体制(傘下資産運用会社・販売会社も含む)や運用力向上に向けた運用人材の育成・確保等のガバナンス改善・体制強化のためのプランの策定・公表が求められています。

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■資産運用会社等への影響
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  • 資産運用会社による適切な商品組成と管理、透明性の確保等を後押しする為、運用担当者の氏名開示を含め、「顧客本位の業務運営に関する原則」に資産運用会社のプロダクトガバナンスを中心とした記載を追加し、その実現(徹底)を図っていく方針です。
  • 2024年夏目途に、公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンド等、幅広いアセットオーナーを対象に、運用・ガバナンス・リスク管理に係る共通の原則(アセットオーナー・プリンシプル)を策定するとともに、企業年金については、その運用力向上等を視野に、「確定給付企業年金(DB)における運用委託先の定期的な評価や見直し等を促進するガイドラインの改定」「企業型確定拠出年金(DC)における指定運用方法や運用商品の構成等に係る情報の見える化」等の施策が予定されています。
  • ベンチャー企業への資金供給促進の為、「VC向けプリンシプルの策定」「非上場株式の公正価値評価の促進」「投資型クラウドファンディングに係る規制緩和」等の施策が予定されています。
  • 「投資信託への非上場株式の組入れ」や「オルタナティブ投資等を行う非上場の外国籍投資信託の国内籍公募投資信託への組入れ」を可能とする投資信託協会の自主規制規則の改正等、オルタナティブ投資やサステナブル投資等を含めた運用対象の多様化が掲げられています。
  • その他、後述「資産運用業の新規参入者への影響」に記載する投資信託の基準価額に係る一者計算の普及やその他の規制緩和施策等も、既存の資産運用会社へ影響すると思われます。

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■資産運用業の新規参入者への影響
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  • 投資運用業者の新規参入が延びない1要因として「ミドル・バックオフィス業務に関する体制整負担の重さ」が指摘されています。そこで、「投資信託の基準価額に係る二重計算の問題」に対して一者計算の普及に向けた環境整備等が予定されています。

  • 新規参入促進の為、官民連携して新興運用業者に対する資金供給の円滑化を図るためのプログラム(日本版EMP)を策定し、金融機関に対して、新興運用業者の積極的な活用等を要請し、新興運用業者を一覧化したリスト(エントリーリスト)を提供する等の取組を予定。「適切な業務の質が確保された外部委託先へのミドル・バックオフィス業務の委託」や「運用指図権限の全部委託によるファンド運営機能への特化」等、規制緩和施策も盛り込まれています。

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■その他の注目すべき施策
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1.「金融・資産運用特区の創設」

  • 金融庁と意欲ある自治体が協働して、関係省庁と連携しつつ、特定の地域において金融・資産運用サービスを集積し、高度化と競争力強化を促進する等、「金融・資産運用特区の創設」が予定されている。2023年末に、「金融・資産運用特区」の概要を金融庁が発表し、関心ある自治体を募り、2024年夏目途に特区のパッケージを策定・公表する予定です。

2.その他の施策

  • 振興運用業者促進の一環で、海外からの参入を支援する金融創業支援ネットワークや拠点開設サポー トオフィス等の一元的窓口を拡充する予定です。
  • 日本市場の魅力を高める為、企業による計画策定・開示・実行の取組について、東証と連携しフォローアップ。また、大量保有報告制度等の制度の見直しの検討を含め、機関投資家による実質的なエンゲージメントの取組を促進予定です。
  • 内外の資産運用会社を中心に、関係事業者や投資家等と連携しつつ、資産運用フーラムを立ち上げ、そのための準備委員会を 2023 年内に設立する予定です。また、自治体や投資家等との対話を通じ、資産運用立国に関する施策の意見交換や施策の深掘り等も検討していく予定です。

専門家の視点

■ 今後への期待等  

  • 2023年6月閣議決定「骨太方針2023」で「資産運用立国の実現」がうたわれて以降、政府・自治体・業界団体等、様々な組織・団体において、その実現に向けた課題検討や具体的な施策決定・準備等が進められています。

    新NISA制度の抜本的拡充・恒久化も決まり、それに続く各種施策も着実に進行。実際、弊社で対応する金融許認可相談の中でも、こうした国の施策に沿った相談内容が増えており、この大きな変化の波を実感しています。

  • 今後、法・監督指針をはじめ各種方針・原則等が策定され、その都度、既存事業者(主に投資運用業者)も含めて、社内体制・管理態勢・規程や方針等の見直しが必要になったり、各種改正等への対応状況を伺うアンケート等が実施される可能性があり、こうした規制への対応は一定発生するものと思われます。

    一方で、金融業界では、これまでも比較的頻繁に規制改正(法改正を含む)が行われていますが、今回の「資産運用立国実現プラン」に盛り込まれた内容は、より抜本的な制度改正に繋がる要素が多く、新規参入事業者だけでなく、既存事業者にとっても、大きなチャンスになり得るものです。例えば、管理コスト等の懸念から断念していた投資運用業への参入を再検討する等、新たな事業拡大のチャンスとしての活用も積極的に検討していきましょう。

    特に、東京都では、以前より「国際金融都市としての地位の確立」に向け、例えば、金融系外国企業の誘致施策(各種補助金の提供、東京国際金融機構 (FinCity.Tokyo) の設立等)や資産運用業者の育成施策(東京版EMPファンド創設、Tokyo独立開業道場開催等)等、様々な施策・取組を推進しています。今回の「金融・資産運用特区の創設」等を追い風に、今まで以上の変化・成果が期待されます。

  • 長年、金融許認可実務に関与してきた立場としては、これら方針を実現する為の現場対応(新規の金融商品取引業登録実務等)にも、強く期待したい所です。

    新たな投資運用業者を含め、国が国内外からの新規参入促進をする一方で、ライセンスの登録実務現場では「登録に要する期間の長期化/管轄や担当官別の対応の相違」等の課題があり、温度差を感じます。申請する事業者側で、予め登録要件その他監督指針等での要請事項への対応や書類作成レベル等をあげることは大前提として、その対応・受付等をする行政担当者側での理解促進・早期登録に向けた体制整備等も非常に重要だと感じます。

以上

[執筆者情報]

主任コンサルタント 行政書士 増野 佐智子

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■「投資助言業」の活用機会の広がり(2023.11)

報道発表

  • 2023年11月、株式会社山梨中央銀行は、有価証券の運用部門のノウハウを生かして投資助言ビジネスに参入すると発表。12月に全額出資子会社を設立。2023年度内にも投資運用会社などへの営業を開始。投資助言によるコンサルティング料を新たな収益源に育てる方針。

  • 設立する子会社は、甲府市所在・資本金5000万円で、銀行本体の運用部門から10人弱の社員が出向して事業を開始。将来は、公募投資信託を運用する投資運用会社等も対象に事業拡大を目指す。

  • 地銀では、これまでに株式会社肥後銀行(熊本県)や株式会社北國銀行(石川県)が、子会社による投資助言事業を始めている。
規制解説

■ 各種金融機関における兼業規制  

銀行をはじめ、証券会社・運用会社等の各種金融機関は、他の業務により経営基盤が脅かされるリスクを排除する等の目的で、各業法において他に行うことができる業務(兼業)の範囲が一定制限されています。

[銀行の場合]

  • 銀行の場合、銀行法に基づき、兼業可能な範囲は以下と定められ、これ以外の兼業は認められていません。

①固有業務
(銀行法10-1)
「預金又は定期積金等の受入れ」「資金の貸付け又は手形の割引」及び
「為替取引」のこと。
②付随業務
(銀行法10-2)
固有業務に付随する業務のこと。「債務の保証等」「有価証券の売買」
「有価証証券の貸付」「振替業」「両替」が列挙されている。
③他業証券業務
(銀行法11)
固有業務の遂行を妨げない限度において認められる業務のこと。
「金商法に規定する投資助言業務」等が列挙されている。
④法定他業務
(銀行法12)
上記①~③以外で、他の法律により認められる業務のこと。

  • 銀行が社会経済で期待される役割の変化等にあわせ、銀行の兼業範囲を見直す改正が度々行われており、上記の内、特に「付随業務」の範囲が拡大される傾向にあります。

  • その他、銀行の兼業規制については、銀行本体だけでなく、銀行子会社や銀行兄弟会社に対しても課せられています。ただし、規制内容は、銀行本体とは異なり、銀行子会社については[銀行法16の2]に、銀行兄弟会社については[銀行法52の23]に、それぞれ規定されています。なお、銀行子会社は、銀行法施行規則第17条の2第2項において、「投資助言業」を含む金融商品取引法に基づく業務が一部認められています。

専門家の視点

■ 投資助言業の活用機会  

1.増えつつある「他業種から投資助言業への参入相談」  

  • 金融商品取引業にも、「第一種・第二種・運用・助言」の4種類があります。
    この中で、一番活用余地が幅広く(長年金商実務に関わってきた上での実感値ですが)、他の種別に比べてライセンス取得・維持ハードルが低く、弊社への相談も多いのが「投資助言業」です。

    特に最近は、以下のような「他業務からの投資助言業への新規参入」の相談が増えています。

    既に一定の実績・顧客数を獲得している既存事業を柱に、その既存事業のノウハウ・顧客基盤等を生かせる投資助言業も提供し、事業シナジーを高め収益機会を広げたいというパターンです。

    [最近よくあるご相談]

✓ 国内外の金融機関(地方銀行・信託会社等)が、投資助言・コンサルティングを
  手掛ける子会社を立ち上げたいケース

✓ 既存の金融商品取引業者(投資助言以外)が、投資助言を追加する変更登録又は
  投資助言を行う子会社を新たに設立したいケース

✓ 不動産や保険等、広い意味での資産を扱う他事業から投資助言業への新規参入ケース

2.なぜ今「投資助言業」なのか

  • 投資助言業の相談が増えている一因として「コロナの影響等を受けた個人投資家の投資意欲の高まり」があげられます。

    コロナの影響で、生活防衛意識の高まりや在宅勤務・オンライン面談等の普及により余裕時間が生まれたことで、若年層も含め幅広い個人投資家の投資意欲が高まる傾向に。また、NISA制度の見直し、行政による投資・経済教育の普及活動等もあり、益々、投資に興味関心が集まる傾向にあります。

    こうした社会的な変化を受け、投資経験の浅い個人でも手を出しやすい分散・少額・積立型の金融商品や株式等の初心者向けの投資情報の提供を手掛けたり、若年層の投資家を早期に囲い込み長期的に様々な投資・運用機会を提供すべく、そのきっかけとして投資助言業を活用しようとする相談が増えている印象です。

3.「投資助言業」の魅力

  • 「投資助言業」とは、顧客との間で締結した投資顧問契約(有償)に基づき、「有価証券の価値等」又は「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断」について助言を行うことをいいます。
  • 投資助言業者は、あくまでも「助言(アドバイス)」を行うのみで、個々の投資判断は投資家(顧客)自身が行う点は、注意が必要です。

    例えば、「投資判断を顧客ではなく、投資助言業者が行っている場合」(ミラートレード等の自動売買システムを含む)、投資助言業ではなく、投資運用業に該当する可能性があります。また、特定の商品の販売や購入手続き等に関与する場合も、第一種・第二種金融商品取引業や金融商品仲介業等に該当する可能性があります。

  • 投資助言業の事業としての魅力は、以下の点にあるように思います。
    更に、国が促進する「貯蓄から投資へ」の流れの中で、NISA制度の見直し・金融教育の普及等も進んでおり、こうした国・政策の方向性とも相性がいいのが投資助言業です。

    [①顧客となる対象者の範囲(顧客層・地域等)の広さ]
     ✓ 他の業種(第二種等)は、実際に顧客が投資・取引を行う際等に関与することが多いですが、
       投資助言業は、実際に顧客が投資等を行うか否かに関わらず&投資等を行う前段階から関与し、
       報酬を得ることができます。

       実際、株式投資スクール等では、「投資経験はないが投資に興味がある若年層」等を対象に、
       個別銘柄の分析手法やチャートの見方等を指導したり、投資シュミレーションをさせる等、
       実際に投資等を行っていない顧客から報酬を得ている場合があります。

     ✓ 投資助言業者の助言方法は、対面だけでなく、電話・メールやチャット等の文書・書籍・動画等、
       多岐に渡ります。コロナ禍で、様々なオンラインツールが普及した今では、1拠点で全国の顧客を
       対象に、様々な方法で助言サービスを遠隔提供することも現実的です。

       また、投資助言業は、一定のルールのもと、ホームページ等のオンライン上で勧誘等を行ったり、
       投資顧問契約の締結も電磁的方法で完結することが可能です。
      (比較)他の業種(第二種等)では、ホームページ等で勧誘・集客等をする場合、
          電子募集取扱業務等に該当し、登録ハードルが一気に高くなる場合があります。

    [②報酬体系の柔軟さ]
     ✓ 投資助言業者が顧客から得る報酬体系も、比較的柔軟に設定することができます。
      (投資助言業者には、顧客の利益を第一に業務を行う忠実義務等が課せられている為、
       合理的でない報酬体系はもちろんNG。また業務方法書への記載等の諸手続きも必要)

       固定報酬は「月〇円/年〇円、1銘柄につき〇円、1回につき〇円」等、様々な基準で設定可。
       助言によって利益が出た場合に発生する「成功報酬」を設定することも可能です。
      (固定報酬×成功報酬の組み合わせも可)魅力的なプラン・サービスを複数設定している場合、
       1名の顧客との間で複数の投資顧問契約を締結しているケースもあります。

 

4.他事業から投資助言業に参入する際の注意点

  • 他事業から投資助言業に参入する際に気を付けたいのが「申請主体をどうするか」です。

    ✓ 投資助言業のライセンスは、その申請者(個人又は法人)に対して付与されます。
      ライセンスだけを他人/他社へ承継する等はできません。
     (ライセンス主体を変更したい場合は、原則ライセンスの取直し)

    ✓ 投資助言業を取得・維持するには、組織・人(金商業者での実務経験者の確保等)要件を中心に、
      複数の要件をクリアし続ける必要があります。

    ✓ 投資助言業者は、金商業者として証券検査・協会検査等の検査対象になっています。
      万が一行政処分等に至った場合、その情報が公開され、金商業以外の他事業に影響がでる場合も。

    こうした要素をふまえ、将来的な事業展開はもちろん、長期的な適正人員の確保・兼業等を見据え、
    最適な申請主体を選択する必要があります。

  • 既に行っている他事業が、何らかの許認可を必要とする事業の場合は、複数の許認可の要件・ルール等に横断的に対応する必要があります。例えば、金商業の要件整備を重視するあまり、いつの間にか、他事業(例:宅地建物取引業・貸金業等)の要件に抵触してしまっていた…なんてケースもあるので、注意しましょう。

以上

[執筆者情報]

主任コンサルタント 行政書士 増野 佐智子

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■投資運用会社への行政処分事例から読み解く(2023.02)

報道発表

  • 2022年7月15日、金融庁は、証券取引等監視委員会からの勧告を受け、株式会社エスコンアセットマネジメント(以下「当会社」)に対して、業務停止命令(3ヶ月)及び業務改善命令の行政処分を行った旨を発表。

  • 当会社は、エスコンジャパンリート投資法人から委託を受けて行う資産の運用において、当会社の親会社からの取得となる不動産の鑑定評価に関して以下の不適切な行為を行ったことから、金融商品取引法第42条第1項に定める「忠実義務」に違反するものと認められた。

①不動産鑑定業者の独立性を損なう不適切な働きかけ

 不動産鑑定業者から提示された鑑定評価額に係る中間報告又は概算額が、親会社の売却希望価格に満たなか

 った物件について、親会社の売却希望価格を伝達する等した上で、鑑定評価額が当該売却希望価格を上回る

 よう不動産鑑定業者に対して不適切な働きかけを行っていた。

②不適切な不動産鑑定業者選定プロセス

 親会社からの取得となる物件の不動産鑑定評価を依頼する際、親会社の売却希望価格を上回る鑑定評価額を

 得るとを企図して、複数の不動産鑑定業者から不動産鑑定評価に係る概算額を聴取し、その内最も高い概算

 額を提示した不動産鑑定業者の鑑定報酬額が最も廉価になるよう、当該鑑定業者と交渉。更に、当該鑑定業

 者による概算額が最も高かったことを伏せた上で、当該鑑定業者の鑑定報酬額が最も廉価であることを理由

 に当該鑑定業者を依頼先として選定。

[出典]

・「株式会社エスコンアセットマネジメントに対する検査結果に基づく勧告について」

https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2022/2022/20220617-4.html (証券取引等監視委員会HPより)

・「株式会社エスコンアセットマネジメントに対する行政処分について」

https://www.fsa.go.jp/news/r4/shouken/20220715.html (金融庁HPより)

規制解説

1.投資法人と投資運用会社  

  • 投資法人は、「投資信託及び投資法人に関する法律」(以下「投信法」)に基づき、資産を主として特定資産(不動産・不動産の賃借権等、投信法第2条第1項等に規定する特定資産をいう)に対して投資・運用することを目的に設立された社団で、通常、金融商品取引法(以下「金商法」)に基づき投資運用業(金商法第2条第8項12号イ)の登録を受けた運用会社(以下「運用会社」)との間で資産運用委託契約を締結し、資産の運用を委託する。委託を受けた運用会社は、投信法及び金商法の規制に基づき、投資法人の資産を運用することになる。

2.投資法人と運用会社における鑑定評価  

  • 投信法では、運用会社に対して、運用の指図を行う財産について土地・建物等(以下「不動産等」)の取得又は譲渡が行われた時は、利害関係人等ではない不動産鑑定士による鑑定評価の実施を義務付けている。また、投資法人には、投信法に基づき各営業期間にかかる資産運用報告の作成が義務付けられ、当該報告には、「投資法人の現況に関する事項」として「物件ごとに当期末現在における価格」を記載する(投資法人の計算に関する規則第71~73条)。実際は、投資法人の規約等において、資産運用報告で記載する不動産等の価格は“利害関係のない不動産鑑定士による鑑定評価額による”旨等が規定され、営業期間ごとに鑑定評価等が実施されるケースが多い。

ポイント

実務上、投資家(受益者)に対して投資対象である不動産等の鑑定評価結果や鑑定評価書(写)が開示されることも多く、鑑定評価は、投資家(受益者)の投資判断に影響する情報としてその重要性が増している。また、不動産証券化商品等が増え、鑑定評価が求められる場面も複雑化・多様化し、不動産鑑定士等に求められる知識・経験・責任等も高度化している。

3.運用会社の忠実義務  

  • 運用会社は、金商法第42条第1項に基づき、権利者のため忠実に投資運用業を行う「忠実義務」が課せられている。特に、不動産等(原資産を不動産とする金融商品を含む)を主たる投資対象とする運用会社は、利益相反取引防止態勢として、不動産等の取得・売却時の鑑定評価取得や鑑定評価額を基準にした適正・公正な取引価格の決定等が求められ、投資運用業の登録手続きにおいては、こうした不動産の適正かつ公正なデューディリジェンスを実現する為の意思決定プロセス・業務分掌・外部委託・利益相反管理態勢等を決定し、社内規程へ記載し実施することが求められている。

ポイント

権利者のための忠実義務が課せられる運用会社にとって、利益相反取引を適切に管理した上で、中立かつ客観的な立場による適正な不動産鑑定評価を取得し、不動産取引・価格の適正性や公平性を維持することは、当然の要請となっている。

専門家の視点

1.今回の行政処分の影響  

  • 今回問題視された行為は、いずれも「親会社が保有する不動産を、親会社の売却希望価格以上で投資法人に取得させることを最優先とした不適切な行為」。これは、投資法人資産運用会社に限らず、不動産関連特定投資運用業者や不動産特定共同事業者でも、同様の構造・課題を抱えている。

 不動産等が関係するスキームでは、財産基盤が良好な大手が関与することも多く、自ずと「親会社/子会

 社/当社が保有する不動産を組み入れる」「運用中のAM・PMはグループ会社に委託する」等、利害関係

  人との取引が発生しやすい。その際、金融商品取引業者等は、その許認可上の要請として利益相反管理の

  重要性を理解しているが、その親会社・子会社等には通じず、実際は親会社からの圧力等で取引価格や取

  引時期等が強制される事も耳にする。実際、弊社が金融商品取引業者等の内部監査を行った結果、ファン

  ドの不動産取引価格の適切性や鑑定評価を行った鑑定士等の独立性の観点で「×」がつく事例も一定存在

 している。

 今回の行政処分を受け、「明日は我が身」と襟を正した事業者も多いはず。金融商品取引業者・不動産特定共同事業者ともに、親会社・子会社も含めたグループ全体として利益相反管理の重要性を理解することが必要だ。また、ライセンス取得時に構築した内部管理態勢が形骸化しているケースもある為、改めて、自社内で管理する利害関係人・利益相反取引の内容を確認し、社内規程の内容と実態に相違が生じていないか/実態をふまえて適切な内容になっているか等の確認・検証を行うべきだ。

2.今後の検査動向  

  • 投資法人関係の行政処分事例は、2008年に数件発生して以来、今回約14年ぶり。名の知れた大手事業者案件への処分事例で注目を集めているが、今後の証券検査の動向も気になるところだ。

  過去の行政処分事例を見ると、金融商品取引法施行年から翌年にかけて(2007-2008年)、4案件の投資法人関係の行政処分が出ている。更に遡ると、金融商品取引法施行前の2006年にも複数の投資法人関係の行政処分が立て続けに出ており、投資法人関係の行政処分は「続く」傾向にある。

 また、2023年1月27日に発表された「証券取引等監視委員会 中期活動方針(第11期:2023年から2025年)」では、「リスクベースアプローチに基づく証券検査/投資者被害事案に対する積極的な取組み/非定型・新類型の事案等に対する対応力強化」等の方針が挙げられ、リスクベースで検査先を選定し、実質的に意味のある検証等に努める旨等が示されている。実際、コロナ以降、検査自体は減っている印象だったが、この半年程で顧客から「検査が入った」と報告を受ける頻度がじわじわと増えている。投資法人資産運用会社はもちろん、金融商品取引業者は、いつ検査が入っても問題ないように改めて社内管理態勢の確認・検証・見直し等が必要だ。

[参考]

・「行政処分事例集」

https://www.fsa.go.jp/status/s_jirei/kouhyou.html (金融庁HPより)

・「証券取引等監視委員会 中期活動方針(第11期:2023年~2025年)」

https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2023/2023/20230127-1.html (証券取引等監視委員会HPより)

以上

[執筆者情報]

主任コンサルタント 行政書士 増野 佐智子

この件に関するお問い合わせ。ご相談はこちらから




行政処分事例(金融商品取引業)

主任コンサルタント 土子 翠

サポート行政書士法人の土子です。

金融商品取引業者等に対するの行政処分情報は、管轄財務局のHPに掲載されます。

<事例>
令和4年9月30日付で投資助言代理業者に対し、行政処分を求める勧告が行われました。

同社は、無料で会員登録をした者に対するメールマガジンの配信やウェブサイトにより

投資顧問契約の広告・勧誘を行っていたところ、その内容に以下の法令違反行為が認めらました。

(1)顧客に対し虚偽のことを告げる行為

(2)著しく事実に相違する表示のある広告をする行為

これにより、1ヶ月の業務停止命令と業務改善命令となっています。

!弊社では内部監査サポート業務を行っています!

内部監査は年1回の問題点の棚卸を行うことができるチャンスと言え、

内部監査での指摘事項を確実に解消することで、今後のリスクを減らすことができます。

「管理態勢に不安がある」「内部監査が適切に実施できていない」等、是非一度ご相談下さい!




【登壇報告】東京都主催「目指せ!独立系資産運用会社」

東京都主催の下記セミナーで、当社行政書士の増野が講師を務めさせて頂きました。

 
セミナーでは、新型コロナ感染拡大を防ぐため、参加はほぼオンライン(緊急事態宣言中はオンライン参加のみ)となっておりました。
 
セミナーは昨年11月から月1回(全4回)行われておりますが、全日程ともすでに定員に達しており、受付はすでに終了しております。たくさんのご応募ありがとうございました。
 
[セミナー概要]  
 内 容:Tokyo独立系開業道場「目指せ!独立系資産運用会社」  
 日 時:2020年11月26日~2021年2月25日(月1回) PM6時00分~8時00分  
 対象者:都内で資産運用業の開業を目指す金融機関勤務者等

講演内容

今回の担当テーマは「資産運用業関連のライセンス取得手続きについて」。

 
金融商品取引業や不動産特定共同事業など、資産運用に関するライセンスの取得手続きについて、解説をさせて頂きました。
 
特に、申請時に意外と見落としやすい点や効率的にライセンスを取得する方法など、実務家ならではのノウハウをお伝えさせていただき、参加した皆様から「資産運用業の開始に向けた課題や、今やるべきことが明確になった」等、うれしい声を頂いています。
 

コロナ禍ですがライセンス取得の問い合わせ、増えています!

コロナ禍ですが、当社には多くのお客様から金融商品取引業・不動産特定共同事業等、資産運用に関するライセンスの新規取得相談は、大変多く頂いております。 

お問い合わせを頂く皆様からは以下のような声を寄せられています。
 
・コロナ禍で攻めの手が打ちにくい今こそ、時間のかかるライセンス対応を進めておきたい
・コロナ明けに急増するであろう資金調達ニーズに対応できるよう
ライセンスを取得して体制を整えておきたい
・コロナの影響を受けた企業が保有不動産の売却を始めているので、その流れに対応したい
 
 
コロナ期間中に、しっかりとライセンスの対応をしておくことは、今後スムーズにビジネス展開をしていく上で非常に重要です。
 
 

お気軽にお問い合わせください。(初回相談無料)

 当社では、資産運用に関する各種許認可の取得手続きはもちろん、事前準備(人材の採用、組織構築等)からライセンス取得後の対応(許認可管理、内部監査、研修等)まで、幅広くサポートしています。

問い合わせフォームでのお問い合わせの他、
電話でもお気軽にお問い合わせくださいませ。

 

問い合わせフォーム:https://www.shigyo.co.jp/contact_us/

お問い合わせ番号:03-5325-1355




【金融】東京都主催セミナーに講師として参加しました!

先日、東京都主催の下記セミナーに、 当社行政書士の増野が講師として登壇してきました。 

 

[セミナー概要]  

 内 容:Tokyo独立系開業道場「目指せ!独立系資産運用会社」  

 日 時:2019年7月28日(日) AM10時~PM4時まで  

 対象者:都内で資産運用業の開業を目指す金融機関勤務者等(先着順)

 

講演内容

セミナー当日は、「資産運用業関連のライセンス手続きについて」との題名で、

投資運用業・投資助言業の登録手続きのイロハをお伝えしました。 

 

セミナーの参加者は、以下のような方々でした。

・投資運用業への変更登録を目指す、既存の投資助言業者

・新たに投資運用業又はプロ向け投資運用業の登録を目指している方

・新たに投資助言・代理業の登録を目指している方 

 

皆さん、「組織・人の要件」など金融商品取引法上明確になっていない部分や

登録申請時の「意外な落とし穴」といった本音トークに、強い興味・関心を示されていました。

なかなか聞けない貴重な情報ですね!

 

講演を終えて

日曜の長丁場のセミナーでしたが、皆さん熱心に耳を傾けてくださり、

皆さんの勢い・熱量に、たくさんの刺激をいただきました。

 

また、今回キャンセル待ちで参加できなかった方々からの反響も大きく、

想像していた以上に、ライセンス取得手続きでお困りの方が多いことを実感しました。

 

実際の登録手続き・リアルな実務話など、できる限り皆さんに共有していきたいと思っています。 

 

講演・社内セミナー・勉強会などの開催も積極的に行っていきたいと思いますので、

金融商品取引業の登録手続きでお困りの方、経営の方向性にお悩みの方など、

ぜひお気軽に当社までお問い合わせいただければと思います。(初回相談は無料)

 

講師経歴(増野)

早稲田大学法学部卒業後、みずほ銀行を経て、サポート行政書士法人に入社。  

 

金融・不動産分野に精通し、金融商品取引業等の登録手続き、ファンド組成、

社内内部管理態勢の構築支援、内部監査、研修支援等の専門サービスを全国展開中。

 

年間に作成する社内規程の数は、1,000超。

度の飯より「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」を読むのが好き。 




金融内部監査について

こんにちは。

サポート行政書士法人・新宿本社の鳴海です。

 

最近、金融商品取引業者の方から、内部監査サポートのご相談を多くいただきます。

 

金融商品取引業においては、監督指針や各社の業務方法書の中で、

他の部署から独立した内部監査部門を定め、定期的に内部監査を行うことが求められています。

 

しかし実際は、いざ内部監査を行おうとしても、そもそも何をどうしたらいいのか分からない、

ちゃんとチェックできているか不安といった、悩ましい声が多いです。

 

そこで、私達サポート行政書士法人では、

金融商品取引業者の方向けに、内部監査実施支援を行っています。

 

具体的には、以下の流れで、金融商品取引業者の内部監査担当者の方と一緒に、

内部監査を実施しています。

 

<流れ>

①内部監査計画の策定  

 ↓

②予備調査(一部書類の事前チェック)   

    ↓

③実地訪問(ヒアリング、書類チェック、現場チェック、簡単な総評)  

 ↓

④内部監査報告書納品  

 ↓

⑤講評会・今後のご提案

 

最近では、金融商品取引業者の他にも、宅地建物取引業者・建設業者・旅行業者の方からも、

業界の法令・基準に照らして、内部監査を実施して欲しいという声も増えてきています。

 

分野を問わず、内部監査に関してお困りのことがございましたら、

ぜひ一度、サポート行政書士法人までお問い合わせください。(初回のご相談は無料です)

 

それでは、よろしくお願いします。




金融商品取引業の登録免許税について

こんにちは。サポート行政書士法人の高橋です。 

金融商品取引業は、行う行為種別に応じて、以下4種類に分かれます。

①第一種金融商品取引業 
②第二種金融商品取引業
③投資運用業
④投資助言・代理業 

今回は、これら金融商品取引業の新規登録や変更登録に際し発生する、

新規登録や変更登録

新規登録や変更登録

D 第二種金融商品取引業者が高速取引行為を追加する場合。

  (第一種金融商品取引業及び投資運用業を行わない場合に限る)

β 上記Dの場合

(参考:登録免許税法第二十五条別表第一)

弊社では、新規の金融商品取引業登録や、各種変更のサポートを行っています。

金融商品取引業登録を行いたい場合や、変更のお手続きでお悩みの際は、




金融商品取引業は、個人でも登録できる!?

こんにちは。サポート行政書士法人の増野です。

一言に「金融商品取引業」といっても、行う行為種別に応じて、以下4種類に分かれます。

①第一種金融商品取引業
②第二種金融商品取引業
③投資運用業
④投資助言・代理業
 
今回は、これら金融商品取引業の新規登録に際し、
よくいただく以下のご質問についてです。

質問:「会社組織ではなく、個人でも登録できますか?」

結論からいうと、
「①第一種金融商品取引業」と「③投資運用業」については、
「株式会社であること」が要件に挙げられており、個人では登録することができません。

 
また、会社組織であればOKではなく、
「株式会社」に限定されている点にも注意が必要です。
 
一方で、「②第二種金融商品取引業」と「④投資助言・代理業」については、
個人でも会社組織でも、登録することが可能です。

会社組織の種類も、「株式会社」に限定されていないので、「合同会社」等もOKです。

では、個人でのご相談が多いかというと、実質的には、年々減少傾向にあります。

というのも、近年、登録に必要な要件の中で、「組織・人的構成要件」が厳格化されており、
申請者が、個人か会社か関係なく、一律で、「組織として適切に機能すること」が求められています。
 
例えば、経営者の独断や業務上の法令逸脱を阻止する機能や、
攻めと守りの均衡を取り抑制機能を持たせる等が必要で、
これらの要件を満たすには、
一定(複数名)の人員確保や部門設置等が必要になってきますが、
個人事業主1人きりの状態では、
なかなかこの組織・人的構成要件をクリアすることが難しいのが実情です。

また、個人事業主の場合、顧客(投資家)に交付する書面や広告媒体の中に、
「個人の氏名/住所」等を記載することから、個人情報開示の観点で、
個人登録は避けられる人も多いです。

弊社では、新規の金融商品取引業登録のサポートを行っています。
個人と会社どちらで申請するかお悩みの場合も、ぜひお気軽に弊社までご相談下さい(相談無料)。

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金融庁、「処分庁」から「育成庁」へ

こんにちは。金商業担当の清水です。

金融行政が大きな転換点を迎えています。

3月17日、金融庁は、金融機関への監督・検査のあり方を議論した有識者会議の報告書、
「金融モニタリング有識者会議報告書」を発表しました。

これまで金融庁は金融機関の健全性や信頼を維持するために「厳しい処分」を科してきましたが、
官民の「対話」で成長を促す検査・監督への転換を掲げました。

報告書を踏まえ、今春を目処に行政を刷新する方針や作業工程をまとめるようです。

どのように変わるかと言うと、例えば、

検査・監督手法では、以下の方針変更が示されています。

(これまで)
・検査と監督が別々
・チェックリストでの確認

(今後)
・検査・監督の一体運用
・対話を重視

報告書では、金融機関に経営の創意工夫を促す対話型行政を重視するとしました。
健全性や法令遵守などを細かく点検するだけではなく、
経営の大きな課題や将来像を官民で議論するということです。

この金融行政の刷新により、金融商品取引業者に対する監督・検査手法も
大きく転換する可能性があります。

弊社では、多くの金融商品取引業者の顧客がいらっしゃいますので、
金融庁の今後の動きに注視していきます。